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田村秀男

【第380回】増税延期と財政出動でアベノミクスはよみがえる

田村秀男 / 2016.06.06 (月)


産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男

 

 安倍晋三首相は2019年10月へ消費税増税を先送りしたが、アベノミクスにとって残された期間は事実上あと2年余である。安倍氏の自民党総裁任期、2018年9月より前に脱デフレを達成できなければ、安倍政権が終わるばかりではない。最悪の場合、国政は再び迷走し、憲法改正の機運も消滅しよう。
 そんな危機感をだれよりも強く持っているのは安倍首相本人だろう。どの首相もなしえなかった「財務官僚への戦力外通告」(6月2日付産経新聞朝刊)をしてのけ、財務官僚が政官民とメディアに張り巡らせた分厚い増税包囲網を突き破った。

 ●マクロ政策フル回転へ
 1990年代後半から続く「20年デフレ」は財政・金融政策の失敗による。財務省は増税・緊縮による財政再建路線を最優先し、歴代の政権はそれに従った。
 2012年末に発足した第2次安倍政権が打ち出したアベノミクスも財務官僚に増税の足かせをはめられた。財務官僚OBの黒田東彦日銀総裁は異次元緩和政策で応えた半面で、予定通り消費税増税をしないと国債が暴落する恐れがあると首相を説き付けたが、急落したのは家計消費とアベノミクスの勢いだ。
 安倍首相は今回、黒田氏を黙らせた。続いてマクロ政策の路線の大転換に踏み切る。財政出動と金融緩和の両輪を連動してフル回転させる決意だ。
 踏み台は先の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)である。その宣言で、世界経済リスクに対応するためには金融緩和だけでは限界があるとして財政の出番をうたったが、米欧の指導者は政府債務の増大、あるいはインフレ再発リスクにも脅えている。ならば、日本に実験させて、結果を確かめてみたいというのが米欧の本音なのだが、財政政策はもとより自国の事情優先であるべきだ。
 
 ●開けるか日本再生の道
 日本は財政・金融融合策の絶好の機会にある。デフレ圧力の絶え間がない分、インフレ懸念は皆無だ。政府の総債務は先進国中最大水準だが、政府の保有資産を差し引いた純債務は米国と同水準で、民間を含めた対外純債権は340兆円と世界最大だ。日本国債はマイナス金利、つまり将来世代にツケをほとんど回さない形で国債を大量発行できる。
 大震災に備えたインフラ整備、人材育成、航空・宇宙・バイオ・情報通信など成長業種の基礎研究などに政府が投資すれば、400兆円を超す法人の余剰資金(利益剰余金)を呼び込むだろう。増税延期と気の利いた財政出動プログラムをパッケージにすれば、アベノミクスはよみがえる。日本再生の道が一挙に開ける。(了)