千葉県野田市の小4女児虐待死事件を契機に、政府与党は今国会提出予定の児童福祉法と児童虐待防止法の改正案に体罰禁止を盛り込む方向で調整している。2月27日、自民党の「虐待等に関する特命委員会」は、厚生労働部会との合同会議を開き、児童福祉司をはじめ専門職の増員と専門機関の連携等19項目の提言について協議した。
●増員・連携だけでは解決しない
しかし、専門職を増員しても質の向上に力を入れないと意味がない。全国に約3400人いる児童福祉司の約6割が勤務5年未満であり、数年で異動したり辞めたりする職員もいる。虐待対応には時間を要するが、担当職員が異動したらゼロから児童や親との関係を構築し直さなければならない。
臨時職員で増員すると、公務員のルールに馴染むのに時間がかかり、現場の混乱に拍車がかかる。つまり専門職の増員と専門機関の連携だけでは、現場の状況は悪化しかねない点に留意する必要がある。
近年、児童の面前で配偶者に暴力を振るうといった児童への「心理的虐待」も急増している。地方自治体は児童相談の専門家を増やしたが、子供の面前での家庭内暴力を解決し、男女間のもめごとに対応できる人材は育成してこなかった。警察や自治体職員、配偶者暴力相談支援センターだけでは、児童へのそうした心理的虐待に対応できない。
●家庭教育支援法の制定を
保護者が変わらないと児童虐待はなくならないが、保護者への効果的なカウンセリングやプログラムがなく、児童虐待問題について保護者支援のできる専門職は極めて少ない。
厚生労働省の虐待死事例の調査結果(第2次~14次報告総数)によれば、加害動機の内訳は、「保護を怠ったことによる死亡」105人、「しつけのつもり」85人、「子どもの存在の拒否・否定」72人、「泣きやまないことにいらだったため」60人、と報告されている。
生後20カ月まで脳の発達が急すぎるために泣く「むずかり期」がある等の脳科学の知見に基づき、脳の発達段階に応じた関わり方を保護者に教えた結果、虐待が減少したことが外国で立証されている。また、しつけと虐待の違いを教える保護者支援も必要不可欠である。
保護者の内縁者や保育士など保護者以外による体罰が少なくない点も見過ごされている。児童虐待防止法は保護者による虐待を禁止しているが、虐待防止や体罰禁止の対象を保護者に限定すべきでない。
野田市の事件で父親による虐待に注目が集まっているが、平成28年度の虐待死の61%は実母によるものであるという実態も見逃してはならない。それ故に「親を育てる」ための根本対策や、その土台となる家庭教育支援法の制定こそが求められている。(了)