3月1日、韓国の文在寅大統領は1919年に日本の朝鮮半島統治に抵抗して起きた「3・1独立運動」100周年記念行事で演説をした。日本のマスコミの多くは直接的な日本批判がなかったことから日本に配慮したと評価した。しかし、私は演説で文在寅政権の危険さと反日姿勢がより明白になったと見ている。
●日米との連携より対北接近
演説で文大統領は日米韓の〝3国同盟〟から離脱し、北朝鮮独裁政権との連邦制統一を目指していることを明確にした。
前日に米朝首脳会談が決裂して、北朝鮮の核ミサイルの脅威が韓国の目の前に迫っているのに、「朝鮮半島平和の春」「統一も遠くない」などと北朝鮮の軍事的脅威がなくなったかのように夢物語を語った。また、「南北関係の発展が朝米関係の正常化と朝日関係の正常化につながる」として、北朝鮮の非核化が進まない中、日米韓で圧力をかけるべき時に、韓国の対北接近を先行させると公言した。
そして、平和を阻害するのは韓国の中の「理念の敵対」だとして、韓国内の反共保守派を攻撃した。その論法が「親日清算」だった。
日本が朝鮮半島の独立運動家を弾圧するとき「アカ」というレッテル貼りをしたが、それは「日帝の残滓」として今まで続いているとして、「今もわれわれの社会で政治的な競争勢力を非難し、攻撃する道具としてアカという言葉が使われており、変形した『イデオロギー論』が猛威をふるっている」と語った。政敵をアカといって攻撃する勢力は親日派であり、清算の対象だという論理だ。
演説の2日前、保守野党の代表選挙が行われ、黃教安前首相が選ばれた。黃新代表は文政権を「亡国」と非難し、「1980年代に主体思想に心酔した人々が大統領府と政府、国会を掌握」していると激しく批判している。3月1日の午後には退役将軍500人がソウルの街頭で反政府集会を開いた。文政権のイデオロギーが韓国の国是である反共自由民主主義に反しているのではないかという疑いの声が噴出している。
●「親日清算」掲げ保守派攻撃
それに対して、文大統領はイデオロギー論争をすること自体、日帝の残滓であり、それをする保守派は親日派だと演説で決めつけた。
親日清算が保守派攻撃の手段となっている。その結果、悪化した日韓関係を改善する動きをすれば親日派とみなされるから、誰も手を出さない。文大統領は演説で、日本に「力を合わせて」被害者の苦痛を実質的に癒やすよう求めた。戦時労働者に関する国際法違反の韓国最高裁判決を自ら是正する考えがないことを明言したものだ。
日本の一部で、文大統領が演説で3・1運動の死者を7500人と断言したことが問題になっている。実は、2月20日に韓国の国家機関である国史編纂委員会は「死者934人」という最新研究成果を公表していた(詳しくは国基研ろんだん欄の拙稿参照)。文在寅大統領は自国の国家機関の研究を無視する反日演説を行ったのだ。(了)