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冨山泰

【第574回】欧州民主主義国と対中政策で連携を強めよ

冨山泰 / 2019.02.25 (月)


国基研企画委員兼研究員 冨山泰

 

 ベルリンでこのほど日米豪印4カ国協力に関するシンポジウムが開かれ、パネリストの1人としてこれに参加した。欧州でも近年、中国の台頭への懸念が強まり、それに対抗する多国間の枠組みとして、インド太平洋地域の民主主義4カ国による協力体制への関心が増しつつある。
 シンポジウムを主催したのは、ドイツの最大与党キリスト教民主同盟(CDU)傘下の有力シンクタンク、コンラート・アデナウアー財団。日米豪印から研究者6人が招かれ、ドイツの連邦議会議員や専門家と意見交換をする機会が設けられた。

 ●「一帯一路」への懸念を共有
 欧州では従来、中国から遠く離れていることもあり、中国を安全保障上の懸念としてとらえることが少なかった。しかし、ドイツの外相が昨年のミュンヘン安全保障会議で中国の勢力圏拡大構想「一帯一路」を指して、「中国の利益になるように世界を形づくるための包括的なシステムを構築する試み」と断言したように、中国が自由や民主主義に基づかない世界秩序を作り上げようとしているとの懸念が今や欧州で公然と表明されるようになった。
 今回のシンポジウムで筆者が、民主主義の価値観を共有する日米豪印4カ国の協力を世界で最初に提唱した政治家は安倍晋三首相であり、早くも2006年に著書「美しい国へ」でそれを書いていると紹介すると、出席者から驚きの声が上がった。
 しかし、今のところ日米豪印4カ国の枠組みで実際に行われていることは少ない。2017年に10年ぶりに復活した外務省局長級会合が半年に1度開かれているだけだ。安倍首相や河野太郎外相が開催の希望を表明してきた4カ国外相会合や首脳会合へ向けた動きはない。4カ国の合同軍事演習も10年以上行われていない。日米豪印の協力は4国間より3国間で進展しているのが実情だ。

 ●多層的な協議の枠組みを
 4国間の協力が進展しないのは、4カ国が相互に抱く信頼感に差があることや、協力拡大を妨げる国内事情を4カ国それぞれが抱えているためである(例えば協力を軍事分野に拡大することへのためらいがインドにはある)。4カ国の協力を一足飛びにではなく、一歩ずつ進めていくことが大切という意見を日米豪印のパネリストは共有した。
 シンポジウムでは、4カ国協力体制に欧州の民主主義国を加えないのはなぜかという質問がドイツの研究者から飛び出した。実を言うと、欧州は中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)を次世代通信規格5Gのネットワーク構築から排除しようとする米国主導の動きに同調することにはためらいを見せている。また欧州主要国は、トランプ米政権が第2次世界大戦後の世界の平和と繁栄の基礎となったリベラルな国際秩序を壊そうとしているとの批判を強めている。それでも、欧州が中国を安全保障上の脅威ととらえ始めたことで、日米豪印の側は中国問題で英仏独などと協力する機会が生まれた。中国問題に関する多層的な協議の枠組みの一つとして、インド太平洋と欧州の民主主義国が連携を強めることは検討されてしかるべきだ。(了)

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