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鄭大均

【第573回】韓国憲法前文が、日韓友好の障害となっている

鄭大均 / 2019.02.18 (月)


国基研理事 首都大学東京名誉教授 鄭大均

 

 韓国国会議長の「天皇謝罪発言」に一文をというのが、国基研企画委員会からの要請であるが、ここではもっと大事なことを記したい。
 韓国憲法の前文に、「悠久の歴史と伝統に輝くわが大韓民国は3・1運動により建立された大韓民国臨時政府の法統」を継承するという文があって、それが意味するのは、今日の韓国が1897年に成立した大韓帝国の正統性を継承するものであり、1910年から45年までの日本による韓国統治は違法であり、法的に無効であるということである。

 ●歴史認識の大いなる虚構
 韓国のナショナル・アイデンティティを端的に表現したこの歴史認識はしかし大いなる虚構である。当時を振り返ってみればわかるように、日本帝国による大韓帝国の政治的統合が合法と見なされた半面、臨時政府を承認した国はなかったし、大韓民国政府が樹立したのは日韓併合期と連合軍軍政期を経た1948年8月のことである。
 にもかかわらず、この前文は韓国人が「日韓併合期」を「日帝強占期」(日帝による強制的占領期)と呼ぶときの根拠であり、戦時期の朝鮮人労働者に賠償を命じる大法院判決に根拠を与えた歴史観であり、今般、文喜相国会議長が慰安婦問題について天皇に謝罪要求をして泰然としていられるのも、この前文に守護されているからなのだろう。それは今日の韓国人に日本に対する歴史道徳的優越性の感覚を与える便利な理念なのである。

 ●韓国憲法前文を韓国人自身が批判できるか
 言い換えると、この憲法前文は韓国の社会や文化や外交の世界にさまざまな派生物を生み出していく。だから、もし韓国の歴史認識に異論があるというなら、派生物を批判するよりはその大本たる憲法前文が批判されてしかるべきであろう。さらにいえば、憲法前文にある歴史認識が内部からの批判を受け、修正されない限り、日韓に普通の国と普通の国との関係を期待することはできない。だが、この憲法前文が韓国人自身によって批判される時代がやってくるのを想像するのは難しい。韓国にはそれによって被害を受けている人の姿が見えないのだから。
 だからそれを批判すべきは日本人であって、とりわけ日本政府の役割が重要ということになるだろう。今後、日本政府は機会があるごとに、憲法前文にある歴史認識の誤りを指摘すると共にそれが隣国とのパートナーシップ形成にいかに障害になるものであるかを懇切丁寧、かつ執拗に語る必要がある。(了)