2月上旬、ニューデリーでインドのビベカナンダ国際財団(VIF)と「不確実な時代における日印パートナーシップ」と題されたセミナーを行った。それに先立って国家基本問題研究所代表団は、モディ首相の国家安全保障顧問を務めるアジット・ドバル氏らとの意見交換、インド工業連盟(経団連に相当)との対話に臨んだ。
私たちを迎えたインドの人々には熱気が溢れていた。それは、激変する世界情勢への鋭い認識ゆえであり、経済力と国防力を高め、インド太平洋地域の民主主義的な枠組みを断固守り通せるだけの力を養うとの決意ゆえであろう。彼らの熱意は、インドが直面する課題の実現に最も望ましい戦略的パートナーは日本しかいないという信念ゆえでもある。私たちの想いも同様で、セミナーは巧まずして熱気を帯びた。
●説明不足の「一帯一路」対応
地球全体に勢力を広げる中国は「一帯一路」のネットワークに既に40兆円(約4000億ドル)を注ぎ込んだ。日米の計画は合わせて7兆円(約700億ドル)である。金額で中国に劣る分、日米は質で補う作戦だが、果たしてこれで十分か。当然、疑問の声はある。中国の投資や融資は受け入れ国の国内事情も案件の経済合理性も問わない。融資の頭金も不要だ。他方、日本は受け入れ国の人権状況も案件の経済合理性も審査し、頭金は通常30%を要請する。途上国への浸透は中国に有利だ。
そうした中、インドが経済力を養うのに日本の協力は欠かせない。しかし、2017年度実績で日本の対印直接投資は3000億円余り。対中直接投資1兆6000億円の5分の1以下にとどまる。インド側には安倍晋三首相が昨年10月の訪中で一帯一路に前向きの姿勢を示したとの印象もあり、日本の意図への疑問を抱く一因となっていた。
安倍首相は一帯一路への協力に関して4条件(開放性、透明性、経済性、対象国の財政の健全性)を付けた。4条件を満たす限り、中国が不条理な「債務の罠」を仕掛ける余地はないのだが、中国の不透明な勢力拡大に加担するかのような誤解を招かないための十分な説明が必要だろう。
●必要な危機感の共有
安全保障に関して、日本こそインドの抱く強い危機感を共有すべきだと痛感する。米国を最重視しながらも、トランプ米政権の対中政策に一抹の不安が残る中、国基研もVIFも、日印それぞれの軍事力強化と相互協力の必要性を確認した。日印に東南アジア諸国連合(ASEAN)を加えた戦略関係強化の重要性でも一致した。
進出企業、観光客、留学生など、日印間の交流は日中間のそれに比べて10分の1以下。100分の1程度の分野さえある。価値観は重なる部分が多く、補完し合える関係だけに、日印両国の戦略的相互協力を強力に推進する時だと確信を深めた。(了)