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島田洋一

【第571回・特別版】トランプ一般教書演説と日本――リーダーシップの重要性

島田洋一 / 2019.02.07 (木)


国基研企画委員兼研究員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 トランプ大統領の一般教書演説を日本から見ていて改めて感じたのは、アメリカのリーダーシップの重要性である。
 外政分野でトランプ氏が最初に触れたのは、知的財産窃取など中国の国家ぐるみの不正行為をやめさせるとの決意だった。日本も長年被害を受けてきた当事者である。しかし日本政府は手をこまねくばかりだった。「中国共産党のスパイ機関」と言うべきファーウェイの排除も、米政府が先頭に立って戦う状況がなければ、日本政府は中国の顔色を窺って動けなかったかも知れない。

 ●「安易な妥協はするな」が持つ説得力
 「アメリカ第一」がトランプ氏の標語だが、アメリカ第一イコール「同盟国の利益侵害」では必ずしもない。同盟国の利益にもなることを同盟国に諮らず(それはしばしば時間の浪費や情報漏れにつながる)単独速攻する場合も含まれる。対中政策はその典型と言えよう。中国の体制転換という大戦略も視野に、日本も側面支援に力を入れねばならない。その姿勢があって始めて、「安易な妥協をするな」との声も説得力を持つ。
 北朝鮮問題については、「もし私が大統領に選ばれていなければ、今頃北朝鮮との大戦争になっていただろう」との発言があった。しかしより可能性が高いのは、より宥和的な政権であれば、経済制裁緩和をカードに北との妥協を進めたのではないかということだ。トランプ政権は、「非核化まで経済制裁は緩和しない」という重要な一線は守ってきた。
 北の核廃棄が進んでいない点で成功とは言えないが、北の方も具体的な果実は得られていない。ただし元々安保理制裁決議を厳守する気のない中露に加え、石油精製品の秘密供与や訪朝団の「ホテル代」名目での現金提供を続けてきた韓国の文在寅政権は「歩く抜け穴」と言うべき存在である。

 ●日本から米への注文は、「経済制裁堅持」に限るのが正解
 米国が少しでも制裁を緩めれば、もはや違反を米側は強く追求してこないとの見込みから、これら諸国を中心に制裁の実質的解除が静かな雪崩のごとく進みかねない。安保理制裁を解除しても、北の違反が明らかになれば再発動する旨を決議しておけばよいというのが宥和派の論理だが、実際にはありえない。中露は「まず違反の有無を検証する調査委員会を立ち上げ精査すべきだ」「小さな疑惑を理由に平和への流れを断ち切ってはならない」などと反対してこよう。「非核化まで制裁緩和なし」との路線を日米主導で維持していかねばならない。
 他方、ありうる米側の見返り措置の内、朝鮮戦争「終戦宣言」や在韓米軍削減・撤退については日本として反対する理由はない。制裁が維持される限り、終戦宣言自体に大した意味はない。在韓米軍、特に北の攻撃に脆弱な地上部隊の撤退は、先制攻撃を含む米側の作戦の自由度を増し、抑止力が高まるメリットもある。
 韓国が一方的な武装解除や防諜機関の無力化を進める分、在韓米軍基地に対するテロ・破壊工作の潜在的脅威度も増している。在韓米軍撤退についての判断は米側に委ね、日本からの注文は「経済制裁堅持」に限るのが正解だろう。(了)