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西岡力

【第577回】拉致被害者救出の最後のヤマ場が近づいている

西岡力 / 2019.03.11 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 ハノイの米朝首脳会談が決裂した後、「米朝関係が緊張した時、日朝接近が起きる」などとして、拉致問題が動くかもしれないという観測が国内に流れた。私は、それはないと判断している。過去2回の米朝首脳会談で、拉致問題は核ミサイル廃棄交渉に組み込まれたから、米朝交渉が進展するまで北朝鮮は日本との交渉に応じないと見るからだ。一方、米朝が進展する時は日本の経済協力がアメの役割を果たすので、その直後に日朝首脳会談が持たれる。それは今年中になる可能性は十分ある、と私は見ている。

 ●核交渉進展なら日朝首脳会談も
 トランプ米大統領はハノイで、北朝鮮の独裁者金正恩委員長との最初の1対1の会談の冒頭とそれに続く夕食会の、合計2回も拉致に言及した。安倍晋三政権は拉致解決を米国に依存しているという一部の批判は事実認識が誤っている。
 安倍首相は拉致被害者の家族会と救う会に「私の拉致問題解決への考え方をトランプ大統領が直接伝えてくれた」と説明した。その考え方とは、「最も重要な拉致問題の解決に向けて、相互不信の殻を破り、次は私自身が金正恩委員長と直接向き合う。北朝鮮との不幸な過去を清算し、国交正常化を目指す」(1月28日の施政方針演説)というものだったはずだ。
 トランプ大統領は金委員長の前に北朝鮮の地図を広げて、この海岸にホテルを建設すればリゾート地帯になるなどと、不動産業者らしい説明をし、米国は議会が許さないのでカネを出せないが、安倍首相は拉致解決を条件に経済協力をすると言っているという趣旨の話をしたという。

 ●日本は被害者生存情報を生かせ
 北朝鮮内部ではハノイ会談前に、「会談は成功し、制裁は緩み、中朝貿易は再開でき、日本、韓国からカネが入る」という政治学習がなされていた。会談は決裂に終わったので失望感が広まっているというが、北朝鮮は日本からカネが入ると説明して内部の不満をなだめなければならないほど追い詰められている。経済制裁が効いているのだ。
 会談での合意不成立を初めて伝えた3月8日の朝鮮労働党機関紙労働新聞の論評では、安倍首相を「平壌の門を叩いているが、(われわれは)顔を見るだけで血が逆流する」と非難したが、最後に「日本が過去の罪悪について賠償しない限り、われわれと付き合う夢を見るべきではない」として、過去の清算を要求した。
 北朝鮮首脳部は米朝交渉がうまく進んだ後、日本からカネを取る計画を持っていることは間違いない。その時、全拉致被害者を帰国させるか、一部だけを帰して残りは死んだことにするか、最終決定は下されていないようだ。北朝鮮は日本がどれほど生存情報を持っているのかを探っている。
 家族会と救う会は「全被害者の即時一括帰国が実現すれば、被害者から秘密を聞き出して国交正常化に反対することはしない」というメッセージを金委員長宛てに発した。安倍首相はそこに込められた家族の必死の思いを無駄にせず、これまで収集してきた情報を活用して、全被害者を救い出す最後の詰めを行ってほしい。(了)