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田村秀男

【第578回・特別版】「債務の長城」が包囲する嘘の経済成長

田村秀男 / 2019.03.11 (月)


産経新聞特別記者 田村秀男

 

 5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代、共産党が仕切る擬似国会)の冒頭で、李克強首相は今年の国内総生産(GDP)の実質成長率目標を6%台前半に設定すると発表したが、真に受けてはならない。習近平党総書記・国家主席も李首相も、経済実態からすれば嘘であっても統計上は達成できると踏んでいるだけなのだ。

 ●操作される統計数値
 李氏は遼寧省のトップだった2007年、「GDPは人為的に操作されており、私は信用しない」旨、米国の駐中国大使に打ち明けた。2016年12月、習氏の指示の下に国家機関の局長が党機関紙、人民日報に寄稿して「法規に違反し、党の思想に背き、党の規律に触れた」と地方統計工作を糾弾した。最近相次ぐのはGDP以外の景気指標の公表見送りだ。地方は「不都合な数値」が出そうになれば隠蔽いんぺいする。
 習政権が地方統計を問題視するのは、地方のGDP集計値は中央政府が発表する中国全体のGDPと一致するはずが、大きく上回ってしまい、インチキぶりが露見するからだ。もとはと言えば、前年末までに党中央が決め、全人代で発表される成長率目標の達成を至上命題とする党の基本路線の産物だ。
 党がカネ(金融)とモノ(投資)を支配する中国式市場経済システムでは、本来、市場の需要と供給の関係で決まるはずのGDPの変動率を操作しやすい。中国のGDPの内訳を大きく分けると、固定資産投資のほか、家計消費と輸出で構成されるのだが、家計も輸出も党の手では動かせないが、GDPの4割以上を占める固定資本投資は別だ。
 党中央は中央銀行である中国人民銀行に資金を発行させ、国有の商業銀行を通じて国有企業や地方政府に資金を流し込む。インフラ、生産設備、不動産開発など大量のモノ投資は党中央が立てた計画通り進む。それを前年に比べて二十数%増やすと、GDPは易々と2桁成長を遂げる。中国のGDPが日本を抜いたのがリーマン・ショック後の2010年で、今や日本の3倍にもなりそうだ。しかし、膨れ上がったコンクリートと鉄の構築物の多くは、金融面で見れば収益を生まない不良資産、即ちバブルである。中国全土には万里の長城ならぬ「バブル債務の長城」が築かれた。

 ●支離滅裂の財政・金融政策
 李首相は全人代でインフラ投資と減税という財政面での景気てこ入れを約束したが、他方で地方政府には財政支出の一律5%削減を要請済みだし、金融は量的引き締めだ。まさに政策は支離滅裂である。米中貿易交渉決裂ともなれば、中国の金融崩壊リスクが一挙に高まるだろう。(了)