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湯浅博

【第675回】「コロナ後」に激化する米中統治モデルの衝突

湯浅博 / 2020.04.20 (月)


国基研企画委員兼主任研究員 湯浅博

 

 中国・武漢発のパンデミック(感染症大流行)が炙り出したのは、詫びるどころか恩に着せる中国共産党の行動様式であった。自由世界を先導してきた米国が、武漢肺炎の荒波に翻弄されているうちに、中国はその元凶であることを棚上げして、「新型コロナウイルス制圧の勝者」であることを宣伝した。米欧の悲観論者は、パンデミック危機が世界秩序を再編する転換点になるのではないかと懸念する。
 しかし、中国の対外プロパガンダは、国際社会が受け入れられるものではない。これまでにない屈辱感を味わった米国は、やがて同盟国を巻き込んで反転攻勢に乗り出すだろう。パンデミック危機が招いたのは、むしろ、むき出しの米中統治モデルの衝突激化ではないか。

 ●ウイルス制圧の勝者?
 この数年、国際社会は貿易戦争から始まった米中覇権争いを、多党制の自由主義モデルと一党独裁の全体主義モデルの優劣を決するものとして見守ってきた。中国は、当初のウイルス感染の隠蔽に失敗すると、一転して巨大都市の武漢を強権的に隔離した。そして、3月10日の習近平国家主席による武漢視察を機に、ウイルス「隠蔽の敗者」から「制圧の勝者」へと驚くべき速さで方向転換を果たした。
 中国共産党指導部は同時に、ウイルス感染が時間差をもってアジア、欧州、そして米国へと拡散していく流れを逆にチャンスととらえた。中国より遅く流行期を迎えた米欧が数カ月遅れて経済活動を再開するまでに、世界の需要をできる限り取り込む狙いだ。かつ危機に強い独裁統治モデルを印象付けて、「大国としての責任を果たす」として対外支援に乗り出した。「一帯一路」の勢力圏を中心に医療品を満載した中国機を差し向けたのはその一環だ。

 ●米は反転攻勢へ
 しかし、ウイルスを世界に拡散しながら、医療物資を差し向けても、その重大な罪は消えない。まして、危機を利用して米欧のハイテク企業の買収に動く姿勢に怒りを表明する国が出始めた。特に日米欧は、命に関わる医療、情報技術、防衛技術への中国依存の危険性を感じ、サプライチェーンの見直しを加速させる。外資の母国回帰や東南アジアへのシフトが起きるのは必至だ。当初こそ中国モデルが優位に見えても、彼らの過剰債務という経済的欠陥もじわじわと内部侵食していく。
 米国防総省が無駄と非効率に対する歳出カットを迫られるのは避けられない。だが、中露との戦略的競争がある限り、仮に「アメリカ第一」のトランプ大統領が11月の米大統領選挙で再選されても、軽視してきた同盟国との連携強化を求める声は米議会で強まるだろう。国家的な恥辱を受けた時の米国は、日本軍の真珠湾攻撃や、ソ連の人工衛星打ち上げで後れをとったスプートニク・ショックの後のように、一致団結して反転攻勢をかける国である。パンデミック危機による中国の欺瞞と挑発に対しても再び結束を固めよう。そして、中国に悪用されてきた国連はじめ国際機関の再編に突き進むことになる。(了)