新型コロナウイルスとの闘いに世界中が没頭する中で、今後の国際情勢を左右する最大の要素は、世界最多の感染者と死者を出した超大国の米国がどのように変わるかである。考察すべき点は二つある。一つはウイルス感染の大流行が半年後に迫った米大統領選挙に及ぼす影響であり、もう一つは選挙後の政権下で米国が世界のリーダーとして復活する見通しの有無である。
●予断許さぬ11月選挙
米国の全国世論調査では、民主党のバイデン前副大統領が共和党のトランプ大統領を一貫してリードしている。米政治サイト、リアルクリアポリティクス(RCP)の平均支持率によると、その差は現在6ポイントほどで、小さくない。
前回の大統領選でトランプ氏当選の原動力となったラストベルト(製造業が衰退した中西部などの工業地帯)でもトランプ氏は苦戦を強いられ、RCP平均支持率ではミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア各州でバイデン氏の後塵を拝している。
3月半ば以降、トランプ大統領が連日の記者会見でコロナウイルス対策を陣頭指揮する姿勢を見せると、国民の評価は一時的に高まった。しかし、経済活動停滞により失業者が増え、死者の増加にも歯止めがかからない中で、4月に入ると大統領を見る国民の目は冷ややかになった。世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの調べでは、ウイルス感染への大統領の初動が遅すぎたと批判する回答が65%にも達した。
一方、バイデン氏も精彩を欠く。コロナ禍が追い風になっているとは必ずしも言い切れない。感染拡大の恐れで選挙運動を制約され、自宅にカメラを設置したバーチャル集会で、辛うじて国民との接触を保っている。11月3日の投票日直前の経済状況が、当落のカギを握る無党派層の票の行方を左右するかもしれない。
●米の指導力発揮は望み薄か
トランプ氏はコロナウイルス対策でも国際協調を軽んじ、「米国第一」の姿勢をむしろ強めた。欧州の同盟国と相談せず、欧州からの入国拒否を一方的に宣言したのが一例だ。再選された場合に、トランプ氏が米国第一主義を緩める兆しは見えない。
対照的にバイデン氏は、米国がリーダーシップを発揮して自由世界を結集し、同盟・友好国と協力して、台頭する中国などの独裁主義に立ち向かうと公約している。
しかし、米国が戦後、国際社会を主導する役割を果たせたのは、その圧倒的な軍事力と経済力、そして政治力のおかげだった。今や中国の台頭などにより、米国が唯一の超大国である時代は終わり、トランプ大統領の登場前から、米国の政治家も国民も、国内問題を最優先する内向きの傾向を強めていた。バイデン氏が大統領になるだけで、米国が国際的なリーダーシップを発揮する国に戻るとは想定しにくい。
米国のリーダーシップを欠く時代が当分続くことを覚悟して、日本の与野党政治家は国際社会で日本が生き延びる道を本気で探らねばならない。遠くない将来、日本国内のコロナウイルス感染を抑え込めた時に、政争に立ち戻る余裕などないはずである。(了)