バイデン米大統領と習近平中国国家主席は先週、初の電話協議をした。米側発表によると、バイデン大統領は、香港、新疆ウイグルの人権問題や台湾への軍事的圧力、不公正な経済慣行などの懸念を伝えたという。対する中国側の発表は、米中対話の枠組みの再構築を米側に呼びかけたことを強調する。
バイデン大統領がまず強硬姿勢を示しておくことは、超党派で対中強硬の議会との関係を考えても予想の範囲だ。ただ「行動」を見るまでは本当の意味で強硬かどうかは判断できない。むしろバイデン政権は「言葉」だけに終始する恐れも多分にある。
かつてオバマ政権後半での悪夢がよみがえる。アジア・ピボット(回帰)と言いながら、国防予算を削減したり、中国の南シナ海の人工島建設に有効な手を打てなかったり、具体的な行動が伴わなかったのだ。当時の政権担当者が帰ってきた新政権で、レトリック・オンリーのDNAが引き継がれないだろうか。
●懸念される国防予算削減
バイデン政権の対中姿勢を見極めるうえで懸念される「行動」を2点挙げよう。
一つは軍備増強にまい進する中国との軍事バランスが非常に重要な中で、国防予算がどうなるかだ。国内対策優先のバイデン政権では、コロナ対策や大規模な経済対策の財源を求めて、国防予算が削減される可能性が高い。国防長官人事で大本命のフロノイ氏が外されたことなど、党内左派の影響力も無視できない。
二つ目に連邦捜査局(FBI)による摘発や国務省、商務省などによる法執行だ。技術覇権、人権を巡って議会による対中強硬の立法が相次いでいるが、これらと法執行が「車の両輪」を成す。トランプ政権では、FBI の人員・予算を中国対策に優先的に振り向け、国務省は信頼できる同盟国とのネットワーク構想を進め、商務省は輸出管理の運用で中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)への制裁の抜け道を防ごうとした。バイデン政権がこうした法執行にどれだけエネルギーを投入するか甚だ心もとない。
●中国は着々と現状変更
バイデン政権は国防総省に対中政策に関するタスクフォース(作業部会)を設置し、4か月以内に具体案をまとめる。逆に言えば、それまでは大きな動きはなく現状のままだ。こうした外交・安全保障チームに先行して、気候変動チームが4月のサミット開催に向けて中国との協力も模索しながら動き出す。中国はそうしたバイデン政権の出方を見て、隙を突いてくる。
中国はバイデン政権に「言葉」での対中批判は言わせるだけ言わせて、「内政干渉だ」との型通りの反論をしてやり過ごし、同時に対話姿勢をアピールして揺さぶる。その間、「行動」は着実に繰り出している。台湾の防空識別圏への進入、尖閣海域での日本領海侵入、海警法施行など既成事実を積み上げ、ワクチン外交など他国の取り込みに余念がない。
中国の思惑は、バイデン政権の対中強硬の「言葉」に「行動」が伴わないうちに、現状変更の「行動」を積み上げていくことだ。こうした事態にもっと危機感を持つべきだ。(了)