バイデン米政権が世界保健機構(WHO)への復帰を決めた。予想された動きだが、台湾のWHO総会参加などの条件を付けることなく簡単に復帰した姿勢には、強い危惧の念を抱かざるを得ない。
トランプ政権は昨年7月6日、中国に支配され、本来の責任を果たさず、改革の意思も見せないWHOとの関係に終止符を打つとして、1年後に脱退する旨を正式発表した。同時に、WHOに拠出予定だった資金は「他の国際的な、資金を出すに値する緊急性の高い保健事業に振り向ける」と表明した。
●中国との癒着を等閑視
米国の保守派はこの決定を強く支持した。というより、むしろ議会内の保守派の動きが先行していた。連邦予算を握る議会において、リック・スコット、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズ各上院議員(いずれも共和党)を中心に、台湾のWHO参加や、中国と癒着してきたテドロスWHO事務局長の解任が拠出金継続の前提になるとの主張が同年春から打ち出されていた。こうした主張にWHO執行部が耳を貸さなかったため、トランプ政権が脱退を決めたわけである。
その後、11月20日付で議会の超党派有志が改めてテドロス事務局長に公開書簡を出している。ルビオ、クルーズ両議員らに加え、民主党からもシェロッド・ブラウン、エド・マーキー両上院議員らが署名に加わった。
書簡は、台湾が8年連続でWHO年次総会に参加していたのに、テドロス事務局長が就任した2017年夏以降、総会に呼ばれなくなったという事実に注意を喚起する。さらに、台湾は武漢ウイルスとの戦いに最も成功を収め、他国に医療支援も行ってきたと指摘した上で、「国際保健分野での議論の余地なき成果と貢献にも拘らず、WHOは北京の圧力を受け、台湾を総会から排除し続けている。これは、ある一国の政治的計略を国際社会の利益より優先するものである」と厳しく論難する。
書簡はまた、「民主的な台湾が今回のパンデミック(感染症大流行)やその他の公衆保健上の課題に貢献するのを妨げるため、北京がWHOに『一つの中国』政策をのませてきたのは明らかだ」とも述べている。
●バイデン政権が試される
いずれも正しい指摘である。国際機関の改革は、現実問題として、最大の資金拠出国である米国を中心に「カネの力」にものを言わせなければ進まない。日本も、トランプ政権ともども、WHOが再び台湾を総会の場に参加させるまでは拠出金を凍結し、その間、独自に途上国を支援するという対応に出るべきだった。
バイデン政権が掲げる国際協調、国際機関重視が、台湾をいかなる場合でも排除しようとする北京の策動を黙認することを意味するなら、独裁体制との戦いという時代の要請に逆行する。武漢発のパンデミックはまだ続いている。次回のWHO総会に台湾を参加させるため、バイデン政権は具体的にどう動くのか。何ら動かないのか。この政権の対中姿勢を占う重要な試金石となる。(了)