中国に対する危機意識があまりにも希薄ではないかと批判されていた欧州が、ようやく目を覚ましつつある。
5月初めの主要7カ国(G7)外相会議共同声明は中国の軍事的圧力が強まる台湾情勢に言及し、欧州が中国牽制で日米と足並みを揃えた。それに続き、インド太平洋地域の戦略的重要性を再認識したフランスは日米と共に離島防衛の合同演習を実施した。欧州連合(EU)離脱後、グローバル国家としての復活を目標に掲げる英国も、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を回航させる。ドイツも4月、日本と外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を初めて開き、日本と危機感を共有した。ドイツはさらに、フリゲート艦を派遣する計画を進める。欧州主要国が中国に対する抑止力の一翼を担い始めたのは歓迎すべきことだ。
●「一帯一路」で欧州にくさび
しかし、中国が広域経済圏構想「一帯一路」を通じて欧州で影響力をかなり拡大したことも事実である。中国は、欧州の外縁部に当たる中東欧やバルカン諸国との間で「17プラス1」の枠組みを構築し、欧州にくさびを打ち込んだ。とりわけ懸念されるのは、「EUの中庭」と呼ばれるバルカン地域の中国傾斜だ。
この文脈では、ギリシャのピレウス港が事実上、中国の支配下に置かれたことがしきりに伝えられた。セルビアも、中国を「不変の友人」と呼ぶブチッチ政権の下で中国との関係を深めた。AP通信によれば、2年前、セルビアは中国武装警察を招き、合同訓練を実施。また、欧州国家として初めて中国の攻撃用無人機を購入した。その蜜月ぶりに欧州議会は懸念を深め、2月にセルビア政府に対し、「中国のビジネス活動へのコンプライアンス強化を求める」との決議を採択した。
ハンガリーでは、中国の復旦大学が首都ブダペストにキャンパスを開設し、ハンガリー政府が助成金を出すことも決まった。EU加盟国が中国の大学を受け入れるのは初めてだ。ハンガリーのオルバン政権は、その権威主義的統治のせいでEUから「問題児」とみなされ、中国との親和性が高い。
とはいえ、「17プラス1」は、中国が期待していたほどのモメンタムを失いつつあるようだ。2月、習近平も出席してオンライン開催された首脳会議には、バルト3国やバルカン国家ブルガリアなど6カ国の首脳が欠席した。
●中国に厳しい緑の党
他方、今後の欧州の対中政策を見る上では、「緑」の要素も等閑視してはならないだろう。
メルケル長期政権に幕を引く今秋のドイツ総選挙では、環境政党「緑の党」が政権入りする可能性がある。緑の党は中国の人権侵害に対して厳しい姿勢をとっている。EUと中国が合意した包括的投資協定は、ウイグル人弾圧をめぐるEUと中国の制裁の応酬で欧州議会の承認がずれ込んでいるが、この協定に当初から反対していたドイツの政党は緑の党だけだ。中国問題に対処する上では、小異を捨てて大同につくことも必要だ。緑の党との連携は決して無益ではない。(了)