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細川昌彦

【第984回】首脳会談で繰り広げる「半導体の供給網」の綱引き

細川昌彦 / 2022.11.21 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 今月11日以降、アジアにおいては東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の一連の首脳会議、主要20か国・地域(G20)首脳会議、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催された。注目すべきはその機会に行われた日米韓、米中、日米、日中、中韓などの首脳会談だ。それらに共通する経済分野でのキーワードは「サプライチェーン(供給網)」だ。

 ●米国の対中輸出規制が焦点に
 日中首脳会談では、日本政府の発表にないが中国外務省が発表しているものがある。「安定かつ円滑なサプライチェーンを維持すべきだ」との習近平国家主席の発言だ。中韓首脳会談でも習主席は「グローバル産業網とサプライチェーンの安全と安定、円滑な流れを保証しなければならない」と述べたと中国側の報道が伝えている。いかに中国側がサプライチェーンの安定を重視しているかがうかがえる。
 これは米国が半導体の新たな対中輸出規制を発表し、同盟国と連携をとろうとしていることへの中国の危機感の表れだ。10月の中国共産党大会での習主席の政治報告でもサプライチェーンを国家安全の柱の一つとして位置付け、「サプライチェーンの強靭化、安全性の向上」を掲げている。
 とりわけ日米韓三か国首脳会談は中国に大きなインパクトを与えたようだ。これまでの北朝鮮問題での結束だけでなく、日米が韓国を取り込んで中国への牽制を鮮明にし、初めての共同声明を出したからだ。その焦点の一つはサプライチェーンの強化へ向けた日米韓の経済安全保障対話の新設で、念頭にあるのはもちろん半導体だ。

 ●韓国に両大国の踏み絵
 韓国は外貨獲得源の半導体輸出のおよそ6割が中国向けだ。サムスン電子は中国の西安に大規模なメモリー半導体工場を持つ。米国はこうした中国に傾斜する韓国を対中半導体規制に協力させて、米国を中心とするサプライチェーンに引き入れることが不可欠としている。他方で中国も半導体のサプライチェーンのカギになる韓国を揺さぶり、強く牽制する。
 米国による半導体の対中規制はこれまでとは質的に違う規制を目指したものだ。中国が先端半導体を人工知能やスーパーコンピューターに使って軍事開発につなげることを阻止しようとするものだ。軍民融合の中国に対して、取引先を問わず中国への輸出全体に網をかける。すでに日米欧の間では昨年来、水面下で調整しているもので、日本は基本的には同調するだろう。さらに韓国の取り込みも必要だ。日本も、3年前に発動した対韓半導体輸出管理の厳格化措置の扱いも絡めて、どう対処するか問われている。(了)