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細川昌彦

【第995回】防衛省の「自前主義」を排して国力を結集せよ

細川昌彦 / 2022.12.19 (月)


国基研企画委員・明星大学教授 細川昌彦

 

 政府が「国家安全保障戦略」など安保3文書を公表した。これまでの安全保障政策を大きく転換するものと評価したい。とりわけ国の防衛は防衛省だけでなく省庁横断的に取り組み、国全体が担い手であることを打ち出している点は重要だ。
 ただし総論ではそう言いながら、具体論に至るとそれと相反する防衛省の「自前主義」が露呈している。

 ●新たな研究機関の創設は疑問
 防衛技術の研究開発に自前主義が見て取れる。防衛装備庁に新たな研究機関を創設すると「国家防衛戦略」に明記されている。シンクタンク機能を持つことも念頭にあるという。一見よさそうだが、わが国の研究開発体制の全体像から見ると大いに疑問だ。
 忘れてはならないのが、今年成立した経済安保推進法による「官民技術協力」の新制度だ。省庁の縦割りを排して内閣府主導で文科省、経産省も協力する新たな仕組みを創設した。5000億円の基金の予算措置も講じている。
 この仕組みでは、新たなシンクタンクで安全保障の現場のニーズを調査し、官民協議会においてプロジェクトの組成段階から防衛省などの安全保障官庁が関与する。さらに情報漏洩のリスクがあっては安全保障のニーズを出せないので、プロジェクトに参加する研究者に罰則付きの守秘義務がかかる。
 何故こうした新制度ができたのか。
 それは、日本特有の問題である日本学術会議の「軍事研究には携わらない」という長年の方針があるためだ。これが研究現場で依然大きな制約になっている。防衛省自身も、研究開発を強化すべくかつて「安全保障技術研究推進制度」を作ったが、研究者の協力を得られず、十分な成果を上げられなかった苦い経験をしている。防衛省が前面に出る限り、残念ながら同じことが繰り返される。
 そこでこうした状況を打開する仕組みが経済安保の「官民技術協力」なのだ。

 ●学術界の協力がカギ
 学術界を見ると、日本学術会議の頑なな方針の下にあっても日本のために貢献したいと思う研究者は多い。そうした研究現場をイデオロギーの制約から解放する仕組みも重要だ。
 防衛省はこうした内閣府主導の仕組みよりも、あくまで自分たちだけで決めることにこだわりたいようだ。それが防衛装備庁の新たな研究機関の構想に表れている。しかし研究開発は学術界の協力が必要だ。防衛省の下に研究機関を置いても、学術界からの参加は得られないだろう。
 国の総力を結集するというならば、防衛省は自前主義を捨てて、経済安保のシンクタンクと5000億円基金の活用こそ真剣に考えるべきだ。(了)