岸田文雄首相がウクライナ訪問を検討している。5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国でありながら、G7の中で唯一、ウクライナのゼレンスキー大統領との対面での会談を行っていないため訪問したいという。
岸田首相は1月25日の衆院本会議で、ウクライナ訪問について「諸般の事情を踏まえて検討する」と語った。首相は6日にゼレンスキー大統領と電話会談した際、ウクライナ訪問を招請され、9日からは欧州を歴訪したが、首都キーウを訪れることはなかった。
●困難な武器供与
広島選出で「核廃絶」を訴えている首相にとって、ロシアからの核の威嚇を受けているウクライナを自身の目で直接見ることは意義があろう。ただ、警備などの問題をクリアし、ゼレンスキー大統領との会談が実現しても、問題は日本としてさらなるウクライナ支援の具体的な内容を示せるかだ。
日本政府はこれまで防弾チョッキ、ヘルメット、防護マスク、防護衣、小型ドローンを供与したほか、発電機も200台以上送っている。それでも日本と同じく当初は「自衛用」のヘルメット5000個を送ると表明し批判を浴びたドイツが、これまでタブー視されていた主力戦車「レオパルト2」の提供を発表した後だけに、どうしても対比される。
岸田首相は昨年12月、国家安全保障戦略など安保3文書を改定したが、武器を含む装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」や運用指針の見直しについては、「検討する」と表記するにとどまった。与党の一角、公明党が当初の積極的な移転推進案に対し、慎重姿勢を取ったためだ。
岸田首相は国会答弁で「対露制裁とウクライナ支援を強力に推進しつつ、G7や同志国と緊密に連携して対応を継続していく」と述べたが、現状では武器移転は困難だ。
●需要ある移動通信基地局
ウクライナ支援をいかにすべきか、国家基本問題研究所の議論の中で出たのは、移動通信基地局の提供である。
宇宙開発ベンチャー「スペースX」創業者のイーロン・マスク氏は、ウクライナに人工衛星を使ったネット接続サービス「スターリンク」を提供している。「スペースX」以外にも、グーグルやマイクロソフトなど米巨大テック企業がITインフラの確保や維持に向けて協力した。それでもウクライナの通信環境はロシアによる攻撃で多大な被害を受けており、通信手段の多様化の観点からも支援の継続が必要だろう。
ウクライナに支援することは日本自身のためでもある。台湾海峡危機に直面した際、通信基盤の維持は不可欠である。ロシアはウクライナにサイバー攻撃を仕掛けている。移動通信基地局を提供するとしてもサイバーセキュリティーの強化とセットであることは言うまでもない。
「今日のウクライナは明日の台湾」とも言われる。戦い方が変化し、宇宙、サイバーなど「新領域」の装備なしに戦えないことが明確になった。日本がウクライナから学ぶべきことは多い。(了)
第302回 米独の決断を日本は見習うべき。
米独が最新式戦車のウクライナ供与を決定。米独の決断を日本は見習うべき。岸田首相がウクライナを訪問すると聞くが、何を手土産にするのか。兵器が駄目なら移動通信局の設置などもある。ただし紛争地域の要人訪問は普通隠密なのでは?