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今週の直言

西岡力

【第1036回】韓国大統領の必死の国防決意に学べ

西岡力 / 2023.05.01 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授 西岡力

 

 韓国の尹錫悦大統領が米国を国賓訪問し、4月26日、バイデン米大統領と共に、米国の拡大抑止強化を盛り込んだワシントン宣言を公表した。尹大統領は共同記者会見で「私たち2人の首脳は北朝鮮の核ミサイルの脅威に直面し、相手の善意に期待する偽物の平和ではなく、圧倒的な力の優位を通じた平和を達成するため、両国間の拡大抑止を画期的に強化することにした」と述べた。
 北朝鮮の核脅威が急速に高まる中で、尹大統領の韓国が必死に自国の安全を守ろうとしている姿をここに見る。同時に、同じ北朝鮮の核脅威と、台湾有事の際の中国の核脅威にさらされている我が国の危機感のなさに、強い焦燥感を持つ。自国の安全を守るという本能が戦後日本には決定的に欠けていると思わざるを得ない。

 ●高まる北朝鮮の核脅威
 北朝鮮は昨年1年間、過去最多の37回、少なくとも73発のミサイル発射を行い、今年に入っても4月末までに核無人機水中攻撃艇などを含めると15回、30発を発射した。北朝鮮のミサイル発射は「試射」と「演習」の2種類がある。試射はミサイル開発を担当する国防科学院によって行われる。この段階ではまだ実戦配備されていない。開発が終わったミサイルは軍によって実戦配備される。演習はこの段階で行われる。今年に入り、北朝鮮は軍による発射演習を繰り返し、それを核攻撃演習だと公表している。
 北朝鮮の核脅威は今年に入り確実に高まっている。米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の火星15と火星17の発射演習を行ったことは見逃せない。北朝鮮はすでに米本土を核攻撃できる能力を持ったか、持つ直前に来ている。火星15と火星17は液体燃料を使うので、発射までに一定の時間がかかるから兆候を察知しやすい。4月に試射された火星18は固体燃料であり、これが完成すると兆候をつかんで発射前に打撃を加えることが困難になる。
 もう一つ無視できないのが、繰り返し行っている戦術核ミサイルの発射演習だ。多数の小型核弾頭を公開してもいる。韓国や日本に対して戦術核攻撃を行う準備を着々と進めているのだ。

 ●危機を危機と感じない日本
 すでに北朝鮮の我が国を射程に入れた核ミサイルは実戦配備されている。昨年末に日本政府が公開した安保3文書の一つである「国家防衛戦略」には「北朝鮮は体制を維持するため、大量破壊兵器や弾道ミサイル等の増強に集中的に取り組んでおり、技術的には我が国を射程に収める弾道ミサイルに核兵器を搭載し、我が国を攻撃する能力を既に保有しているものとみられる」と明記されている。実は、5年前の2018年12月の「防衛計画の大綱」からこの判断が書かれている。
 米国は自国が核攻撃を受ける危険を冒しても同盟国のために核を使用するのか。この疑問に正面から立ち向かったのが尹大統領の韓国だ。残念ながら我が国にはその姿が見えない。危機を危機と感じないことが、我が国の最大の危機だ。(了)
 
 

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その中で米韓が核協議グループを。今年になり北朝鮮は米国まで届く核を持った。この軍事的危機の高まりの中、韓国は米国と協議した。日本の状況も同じなのに議論さえしない。危機感が乏しいと言わざるを得ない。