公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

山田吉彦

【第1080回】中国の違法ブイを日本の手で撤去せよ

山田吉彦 / 2023.10.16 (月)


国基研理事・東海大学教授 山田吉彦

 

 日本の海洋安全保障にとって最も重要な施策は、領土、領海、領空を守る確固たる意志を示すことである。
 中国による尖閣諸島への侵出は止まるところを知らない。中国は7月、尖閣諸島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に、海洋観測用と思われるブイを設置した。政府はその事実を確認したものの、2カ月間国民に知らせなかった。9月19日になって急遽公表したのは、岸田内閣改造により外相が日中友好を重視する林芳正氏から原理原則を重視する上川陽子氏へ代わったことが影響したと考えられる。
 しかし、ブイの違法な設置を認識しながら、政府は中国当局に撤去を要求しただけで、主権国家としての具体的な行動をしていない。漁船及び通行船舶の安全上、日本の手でブイを速やかに撤去すべきである。ブイを設置した中国の思惑を把握するためにも、日本政府はブイを回収し、詳細な調査をすべきである。

 ●欠かせぬ台湾への配慮
 中国がブイを設置した海域は、日本と台湾との中間線から500メートル日本側に入った地点である。日本と台湾の基線の設定が違うため、台湾から見ると中間線上付近となる。ブイ設置に対応するに当たり、政府は台湾に配慮しなければならない。だが、日本は台湾との間で正式な外交関係を持たない。
 主権に関わる問題なので、政府は慎重に対処したのであろう。しかし、岸田文雄政権は中国の無謀な行為に毅然とした態度で臨むべきである。中国が航行の妨げになるブイを中間線付近で設置したので撤去する、と台湾に連絡をして対処すれば良いのである。あくまでも日本は、国際法に照らして日本が設定した中間線を基に主張すべきである。中国ではなく、台湾を相手にする外交姿勢をとるべきである。台湾は2013年の日台漁業取り決め(政府間協定に相当)の締結以降、尖閣の領有権を正式に主張したことはないのだ。

 ●フィリピンを見習え
 アジア海域の情勢は大きく変貌している。フィリピンのマルコス政権は、南シナ海における主権確保のため積極的に中国を排除する動きに出ている。9月25日には、マニラ沖約200キロのスカボロー礁に中国が設置した洋上フェンスを強制撤去した。また、スプラトリー諸島においては、中国が新たな人工島を建設する動きを沿岸警備隊の船が阻止している。
 ベトナムもフィリピンと歩調を合わすように、スプラトリー諸島に積極的に進出している。そのため中国海警局は、南シナ海に注力しなければいけないのだ。そこで東シナ海では、ブイ設置などの手法で尖閣諸島支配の既成事実づくりを進めているのだ。
 日本は速やかにブイを撤去し、日本の主権がこの海域に及ぶことを示すべきだ。日本は自国の主権を確保するとともに、アジア海域における法と秩序の維持のため、国際的な海洋安全保障の構築に動く必要がある。他国と歩調を合わせるためには、自衛隊と海上保安庁が連携した支援体制が求められる。(了)