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本田悦朗

【第1085回】日本経済再生へ消費税の時限減税が必要

本田悦朗 / 2023.10.30 (月)


国基研企画委員・元内閣官房参与 本田悦朗

 

 政府が近くまとめる新たな経済対策の原案はその柱として、「供給力の強化」と「国民への還元」を掲げている。前者は対策の軸足を需要拡大から供給力の拡大に移すことを意味する。確かに総需要が潜在的供給力に近づいており、需給ギャップは縮小しつつあるが、デフレの後遺症が続く中で依然として低成長が続いており、過去に実現した低い国内総生産(GDP)を基礎に算出された潜在的供給力は「真の供給能力」より低くなる。従って、総需要は依然として「真の供給能力」に追いついていない。特に、輸入品高騰を起点とする消費者物価の高止まりは消費を抑制するので、デフレからの完全脱却に水を差す。
 そこで新たな経済対策は、あくまで賃金上昇と消費拡大の好循環が牽引する2%程度の持続的な物価安定目標の達成を主眼とすべきである。長期間日本経済を苦しめたデフレによって、消費者も経営者も行動に変容を来し、リスクを取らなくなっている。経済回復には、供給力を上回る十分な総需要が継続する必要がある。「供給重視への転換」あるいは「自然増収の国民へのお返し」と言った単純な話ではない。

 ●消費拡大を目指せ
 税の自然増収によってプライマリーバランス(PB=国債関係の歳出入を除いた財政収支)が急速に改善しており、結果的に、前年度と比較して財政が引き締まっている。これは、経済回復期には、赤字法人の黒字転換や所得税率の累進構造等によって、経済成長以上に税収が増えるからである(これを「自動安定化機能」という)。今回は、輸入インフレによって消費税収が大幅に増加したことが大きい。しかし、これでは税収増によって金融緩和の効果が減殺されてしまう。少なくとも当面、現状程度のPBの赤字は必要である。時期尚早の自動安定化機能を制御するためにこそ減税が必要なのである。
 消費拡大のためには、消費税を減税すべきである。輸入インフレを起点として価格転嫁が進み、物価が上がりすぎて消費者の実質可処分所得が減っているのだから、消費税を含む物価を下落させるのが最も効果的である。ただし、恒久的な措置である必要はなく、物価上昇を上回る賃金上昇が確認されるなど、需要牽引型の消費者物価が2%程度で安定することが見通せる時までの時限措置で良い。具体的には、現行の消費税率10%(軽減税率8%)の5%への減税が有効である。

 ●恒久的所得税改革が中長期的課題
 政府・与党では、所得税の定額減税(一人4万円の時限措置)や非課税世帯に対する7万円の給付金などの案が検討されているが、1年限りの措置であることが前提とされており、消費にほとんど影響を与えない。効果があるのは恒常的な所得増加である。
 恒久措置として、所得税と給付金を結合した「給付付き税額控除制度」(所得控除を税額控除に置き換え、税額から控除しきれなかった分はマイナスの所得税として還付する)の新設を中長期的課題として真剣に検討すべきである。(了)
 
 

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