公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第74回】中国軍の文民統制崩壊の恐れ

田久保忠衛 / 2011.01.31 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

正確に記そう。ゲーツ米国防長官が北京に到着したのは1月11日だ。中国の次世代ステルス戦闘機「殲20」試作機の試験飛行を示す情報が中国内のウェブサイトで流れた。同長官がこの日に行われた胡錦濤中国国家主席との会談でこれを持ち出したら、胡主席はこの情報を知らなかったようだ。米政府高官が同行記者団にそのように語った。

胡主席も知らなかった?試験飛行
帰国の途次、東京に立ち寄ったゲーツ長官は、14日に東京・三田の慶応大学で講演したが、そのあとで同大法学部の1学生が「仮に胡主席を含めてシビリアンの指導者たちが本当に事前の情報を手にしていなかったとしたら、それは世界にとってだけでなく、中国内でも中国軍の不透明性と突出ぶりを意味しないか」との質問を発したのである。この学生のニュース感覚は、タイミングと内容の2点からプロの記者に優っている。

ゲーツ長官は「それこそ、われわれが何年か前から(中国の)軍とシビリアン指導部間に齟齬があるのではないかと疑ってきた点だ。2、3年前に米海軍の音響測定船インペッカブルに対する中国船の妨害行動をシビリアン指導部は知らなかったと思う。3年ほど前に行われた衛星破壊実験についてもそうだったのではないか、というのが米側の情報だ。昨日も言ったことだが、彼らはJ20(殲20)の試験飛行も知らなかった明らかな兆候がある」(米国防総省速記録)と述べたのである。

3年前から兆候
はっきりしたのは、米側の疑いは何も殲20に限らないことで、3年前から幾つかの材料を持っていたと断定していいだろう。国防総省の疑いはゲーツ長官と胡主席との会談でかなり裏付けられたからこそ、慶大でのゲーツ発言になったと言える。胡主席はすべてを知った上でとぼけていたのではないかとの推定も可能だが、それは邪推にならないだろうか。

党なり政府の軍に対するコントロールが利かなくなったとしたら、事態は重大だ。

外部で観察の対象となる軍事費その他の数字は信用できるのだろうか。いわゆる第一列島線(九州―沖縄―台湾―フィリピン―ボルネオ島)から第二列島線(伊豆諸島―小笠原諸島―グアム―パラオ諸島―ニューギニア島北西)に及ぶ中国海軍の行動、いやそれだけでなく、北朝鮮との国境、台湾の対岸、インドとの国境における軍事行動のどこまでが国家の意思に基づくか、見当のつかなくなる時代に移行しつつあるのか、あるいは既に移行してしまったのか。日本の防衛政策の前提はすべて狂ってくる。(了)

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第74回:中国軍の文民統制崩壊の恐れ(田久保忠衛)