自民党がガバナンス(統治)機能不全に陥っている。
衆院政治倫理審査会の開催をめぐって、出席者の人選や公開の在り方で与野党が対立し、最後は岸田文雄首相(党総裁)が自ら出席を申し出ないと事態を打開できなかった。国会対応の最終的な責任者である茂木敏充幹事長がほとんど動かなかったためである。
岸田首相が派閥による政治資金パーティー券問題を受けて、自身が会長を務めていた「宏池会」(岸田派)の解消を決めても、麻生太郎副総裁や茂木幹事長はそれぞれが率いる派閥を解消することもなかった。
●法治主義の精神消滅
「恐ろしいのは、派閥による政党政治が長く続くなかで、派閥組織から法治主義の精神が消滅し、違法を違法とすら感じない神経麻痺が進行してしまっているという点にある。これこそ、法治国家日本の政治が直面する最も深刻な現在の危機の本質であり、この点を避けて通るいかなる制度改革案も偽善に陥るだけであろう」
これは学習院大学教授だった故香山健一氏が産経新聞「正論」欄に平成4(1992)年10月16日に書いた一節である。香山氏は自民党最大派閥「経世会」会長だった金丸信副総裁(当時)が政治資金規正法違反で議員辞職に追い込まれたことを受けて、派閥の解散を党として決定し、出直し的党改革に着手することを求めた。いまの状況にそっくりそのまま当てはまる。
昭和63(1988)年のリクルート事件を受けて自民党が平成元(1989)年にまとめた「政治改革大綱」では「派閥の弊害除去と解消への決意」という項目が設けられたが、金丸事件、そして今回の政治資金問題にみられるように、空文化している。
●麻生、茂木両氏を説得せよ
自民党は令和6(2024)年運動方針原案で「これまでの『派閥』から脱却し、二度と復活させない」と明記した。岸田首相は政倫審で「政治への信頼を回復するために私自身が先頭に立って、前例や慣習にとらわれることなく改めるべきは改めていく」と表明した。
岸田首相が本気で党改革に取り組もうとするなら、麻生氏や茂木氏を説得し、3月17日の党大会で正式に派閥解消を決めなければならない。副総裁や幹事長が総裁の言うことを聞かない組織がどうしてガバナンスを回復できようか。(了)