日銀は3月19日の金融政策決定会合で、金融政策の基準となる無担保オーバーナイト・コールレート(銀行間で資金を一晩融通する時の金利。以下「コールレート」)をマイナス金利(直前の平均はマイナス0.008%程度)から0~0.1%程度で推移するように改め、利上げに転じた。同時に、10年物国債の利回りの上限の目処を1.0%とする長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)政策を廃止した。
さらに、デフレ再発懸念を完全に払拭することを目的とした「オーバーシュート・コミットメント」政策(物価安定目標の2%を若干超えるインフレ率を達成した上で、上から2%に着地させる政策)も廃止した。
要するに、金融を強い緩和状態に維持する為に設定されたマイナス金利政策とYCC政策の双方を一挙に廃止してしまったのである。今後、二度とデフレに戻らないことを重視してきた論者から、今回の決定は時期尚早だとの疑問が出されたのは当然である。
●利上げは時期尚早
今回の決定の背景には、「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」(日銀)との判断がある。確かに、円安を主因として企業収益は高水準にあり、人手不足は厳しさを増している。春の労使交渉時点の消費者物価上昇率は、2022年2.5%、23年3.2%で、物価安定目標の2%を上回る。また、中長期的に見ても、日銀は、需給ギャップがプラスに転じ、予想インフレ率や賃金上昇率も高まってくると見ている。
特に今回の利上げ決定に大きく影響したのは、今春闘の平均賃上げ率が「33年ぶりの5%超え」という連合の第一回集計結果(3月15日発表)と、大企業を中心にその後も相次いだ賃上げ要求に対する「満額回答」であろう。しかし、春闘の最終結果は5月まで出そろわないし、中小企業がどこまで賃上げに追随できるか懸念が残る。マイナス金利解除は、春闘の最終結果を確認してからでもリスクはないはずだ。
さらに言えば、本来、物価安定目標の実現が「見通せる」状況を超えて、安定的に実現するまで利上げを待つべきではなかったか。利上げ局面では、まず経済回復を確認した後に慎重に利上げする(これを「ビハインド・ザ・カーブ」と呼ぶ)のが基本である。
●「0〜0.1%」維持を明確にせよ
金融政策の局面は変わった。しかし、日銀自身が認めているとおり、わが国経済・物価を巡る不確実性はきわめて高い。その中で、日銀決定はコールレートを「0~0.1%程度で推移するよう促す」としか言わない。今後、日銀は「2%の物価安定目標を持続的に達成するまで、コールレート政策金利を0~0.1%程度で維持する」というフォワードガイダンス(先行き指針)により強くコミットすべきである。2%の物価安定目標は未達成なのである。(了)