我が国の国会議員31人が台湾の賴清徳新総統の就任式に出席したのを受け、中国の呉江浩駐日大使は5月20日、東京の中国大使館で開催された座談会で「日本が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と述べた。これに対し、林芳正官房長官は22日の記者会見で「在京大使の発言として、極めて不適切だ。直ちに厳重な抗議を行った」旨、明らかにした。
●抗議で済む話ではない
呉大使の同趣旨の発言はこれが初めてではない。昨年4月28日に、日本記者クラブにおいて着任後初の記者会見で、次のように発言している。即ち、「我々は最大な努力で(台湾の)平和統一を求めます。しかし武力行使の放棄を約束することはしません」「日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになってしまいます」(中国大使館公表文より抜粋)。
このときも我が国は外交ルートで抗議したが、全くその効果はなく、呉大使は今回また同様の表現で我が国を批判した。一連の発言は本国からの指示に基づき、用意周到に準備されたものだ。今回も外交ルートでの抗議にとどめれば、呉大使は同じ批判を繰り返すか、さらにエスカレートすること必定である。日本は甘く見られている。
武力によって現状変更を試みることは国際法違反である。中台統一のために武力行使もあり得ると言っている国はどこか。日本国民は台湾の人々に対し友好的だし、彼らの幸福を心から願っている。しかし、日本が中国分裂に加担しているかのような批判には全く根拠がない。呉大使の言辞は日本国民に対する恫喝そのものであり、単なる外交ルートによる抗議で済ますわけにはいかないのである。
●謝罪拒否なら国外追放も
私の駐スイス大使としての経験からも、大使の最も重要な任務の一つは「派遣国と接受国との間の友好関係を促進」することである(外交関係に関するウィーン条約第3条)。呉大使はこの任務を無視し、武力行使という違法行為をちらつかせて日本国民を恫喝する。そのような非行があった場合は、接受国(今回の場合は日本)は派遣国(中国)に対し、大使がペルソナ・ノン・グラータ(好ましくない人物)であることを通告することができる。その場合、派遣国は、その者を本国に召喚するか、又は任務を終了させる義務が生じる(同条約第9条)。我が国は、まず上川陽子外相が呉大使を呼び、真摯な謝罪を要求し、それが受け入れられない場合は、ペルソナ・ノン・グラータを通告し、同時に理由を国際社会に説明するのがよい。正当性は紛れもなく、我が国にある。
我が国は、本件のような事態に対し、「一応、抗議したことにしておく」のではなく、本気で筋を通し、呉大使のような異常な言辞を弄する外交官に対しては、毅然たる態度を示さなければならない。(了)