5月20日、台湾の頼清徳新総統の就任式典が台北で開かれた。国基研からも、私を含む3名が招待を受けて参列した。
日本の超党派議員連盟である日華議員懇談会(日華懇、古屋圭司会長)も31名の代表団で訪れた。議員の数では、国別で最大だった。中国の反発を恐れずに参加した議員たちの姿勢は評価できる。頼総統も式典後に、日本の議員団だけを対象にした昼食会を催し、謝意を表した。
しかし台湾側からは、日本の政治家に対する不満と苛立ちの声も聞こえてくる。
●米では議会が法制定を先導
式典に米国の議員の姿は見えなかった。大統領選を中心とする選挙戦がヒートアップする中、長時間のフライトを強いられることも理由だろう。しかし米議会は、中国の脅威の高まりを前に、その本分たる立法行為を通じて、着実に米台安保関係の地固めをしてきた。
まずは2018年3月に成立した「台湾旅行法」である。意識的に無味無臭の名称を冠したこの法律の肝は、「米政府の全レベルの当局者が、職務で台湾を訪れることを認める」とした上で、特に「(当局者には)閣僚レベルの国家安全保障当局者や軍の将官を含む」と明記し、軍事関係の人的往来を公式化した点にある。
また、「台湾の高官が米国入りすることを、そうした高官の威厳にふさわしい敬意を表しつつ、認めるべきだ」とし、軍服着用や台湾「国旗」の掲揚まで示唆すると共に、誤解の余地がないよう、米側のカウンターパートとして「国務省と国防総省の当局者を含む」と特記している。
中国側は、この法案を通せば米中関係は「レッドラインを超える」と盛んに恫喝したが、かえって米政界の反発を買い、上下両院とも全会一致で通過した(トランプ大統領が署名して成立)。
日頃は政争が目立つ米議会だが、いざという時の全会一致はさすがである。
米国はさらに2022年暮れ、「台湾抵抗力強化法」を成立させた。有事への即応性を高めるための米台合同軍事演習実施などが盛り込まれている。
すなわち米国は、議会が先導する形で必要な立法行為を行い、対中抑止力を強化してきた。問題は日本である。
●台湾が不満な日本の議員外交
故安倍晋三首相は、「台湾有事は日本有事、日米同盟有事」との表現で、同僚議員たちに当事者意識の必要を強く訴えた。ところが日本の政界は、ほぼ眠ったままの状態で推移している。
台湾側の不満はそこに関わる。日本の議員たちは、台湾を訪れては時の総統との面談を求め、政治宣伝のためのツーショット写真を撮っていく。有事を話題にすると、在台日本人をいかに速やかに脱出させるかという「逃げる話」しかしない。そして、鉄道車両の売り込みといったビジネスの話に余念がない。
台湾の与党民進党筋からは、日本版・台湾旅行法を作って欲しいという要請が、日華懇に対してたびたびなされてきた。北京に気を遣う首相官邸や外務省が政府提出法案として提出することはあり得ず、議員立法として成立を図る以外ない。日台の軍関係者が人目を避けて会わざるを得ない状態は政治の恥である。(了)