公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1150回】「日台は運命共同体」の重みを考えよ

有元隆志 / 2024.05.27 (月)


国基研企画委員・月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 台湾の頼清徳新総統は台湾の政界において「最も親日的な政治家」と言われる。副総統時代の2022年7月には暗殺された安倍晋三元首相の弔問のため訪日した。日本と中華民国が1972年に断交して以来、李登輝副総統(当時)が乗り継ぎで東京に立ち寄った以外では最も高位の高官の来日となった。
 頼新総統は就任に先立って5月9日に行われた日本の超党派議員連盟「日華議員懇談会」(日華懇)の総会にビデオメッセージを送り、「台湾と日本はまるで見えない1本の糸で固く結ばれ、生死を共にする『運命共同体』となっている。台湾有事はすなわち日本有事、日本有事はすなわち台湾有事だ」と強調した。

 ●有事に日本は何をしてくれるのか
 総統就任式には、日華懇としては過去最大規模の31人が出席した。頼総統と簫美琴副総統は就任式直後の昼食を日本の議員団と共にし、「お互いに困ったときに助け合える関係こそが真の友だ」などと語った。
 日本側としては、頼総統の「親日」にいつまでも甘えてはならない。問われているのは台湾有事に向けた日本の行動である。
 総統就任式に合わせ、国家基本問題研究所の代表団の一員として訪台したが、カウンターパートである台湾安保協会をはじめ台湾側の有識者との意見交換で、彼らの関心は「台湾有事となった場合に日本は何をしてくれるのか」ということだった。
 「台湾有事は日本有事」と発言したのは安倍元首相だった。安倍元首相の遺志を継ごうと昨年8月に訪台した自民党の麻生太郎副総裁は講演で「戦う覚悟」を問うた。
 安倍元首相の発言を機に以前よりもはるかに議論は活発に行われるようになったが、台湾側との情報共有をはじめ協力の在り方の具体化を早急に図っていかなければならない。

 ●今も尊敬される杉浦少尉
 頼氏は2017年に訪日した際、日本記者クラブでの記者会見で「台湾に影響を与えた人」として、日本海軍の杉浦茂峰少尉に言及した。杉浦少尉は戦時中の1944年10月、台南市上空で米空軍を迎え撃つも撃墜された際、集落を避けるためすぐに脱出せず命を落とした。頼氏が市長を務めた台南では杉浦少尉を祀る「飛虎将軍廟」を建立した。
 頼氏が言及した「生死を共にする『運命共同体』」とは杉浦少尉のような事例を指すのではないか。頼氏の発言の意味の深さを受け止める必要がある。(了)