公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

中川真紀

【第1151回】日本は台湾亡命政権を受け入れるか

中川真紀 / 2024.06.03 (月)


国基研研究員 中川真紀

 

 中国人民解放軍東部戦区は、頼清徳台湾総統の就任を受けて5月23~24日、陸、海、空、ロケット軍等による統合演習「聯合利剣2024A」を台湾周辺で実施した。今回の演習では、台湾東岸最大の港湾である花蓮港東側にも演習区域を設定し、海空軍の「統合戦備パトロール」(戦闘準備の警戒パトロール)に加え、中国海警船が「総合法執行演習」を行う等、台湾東側海空域の重視が特徴の一つであった。

 ●中国の演習目的に要人の脱出阻止
 なぜ台湾東側を重視したのか。これについて中国の国防大学の張弛・副教授は次のように解説している。
 「台湾東部での演習は、以下の3線を遮断するためである。すなわち、①エネルギー輸入の生命線②台湾独立勢力の域外逃亡線③米国及びその同盟国の台湾独立勢力への支援線、である」(5月23日中国中央テレビ〈CCTV〉「央視軍事」) 
 ③は米軍及びその同盟国たる日本が太平洋側から台湾を支援するのを遮断する、ということ。②は台北が占領された場合、台湾政権は花蓮まで撤退して抗戦し、花蓮も占領されれば台湾本島から脱出する可能性があり、その脱出経路を遮断する、ということである。では、脱出する先はどこか。中国は最も近い日本を想定し、花蓮東側を重視して演習区域を設定した可能性がある。
 筆者は台湾有事の際、中国が最も懸念する日本の行動は、米軍支援と台湾亡命政権の受け入れだと考えている。
 台湾有事は軍事作戦だけでは終わらない。中国人民解放軍による占領後、中国共産党は台湾政権中枢の逮捕と裁判、台湾行政機関の接収、台湾軍の武装解除等を行い、台湾を「解放」せねばならない。
 もし、台湾政権が台湾から脱出し、外国の地で亡命政権を樹立すればどうなるか。「中華民国」亡命政府ではなく、独立宣言をした「台湾」亡命政府となる可能性もある。各国がこれを承認するかという問題はあるとしても、民主主義国家が「台湾」を支援し、中国共産党に支配されている台湾人を鼓舞するという構図ができあがる。これを中国が阻止したいのは当然であろう。

 ●抵抗支援はあり得るシナリオ
 台湾政権は勿論、最後まで台湾島内で抗戦する意思を保持しているであろう。しかし、日本としては台湾有事の際、台湾亡命政権を受け入れ、支援するという可能性はシナリオの一つとして想定しておくべきである。
 香港の活動家が亡命している米国、英国、カナダでは遠すぎる。台湾人の心は亡命政権から離れ、亡命政権の影響力は低下していくだけだ。日本はあらゆる可能性を想定して準備しておくべきである。(了)