公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

岩田清文

【第1168回】非核ミサイルで戦術核攻撃を抑止せよ

岩田清文 / 2024.08.05 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 拡大抑止に関する日米閣僚会合が7月28日、東京で開催された。核を含めた米国の拡大抑止に関して、これまで十数年にわたり事務レベルの会合が行われてきたが、閣僚である政治レベルで議論されたのは初めてである。
 閣僚会合後の共同発表には、「閣僚は、米国の核政策及び核態勢並びに同盟における核及び非核の軍事的事項の間の関係性について緊密に協議する両国のコミットメントを再確認した。閣僚は、日米の抑止力及び抑止の方策に係る議論を継続する意図を改めて確認した」とある。ウクライナにおいて、ロシアによる戦術核使用の可能性が懸念される中、極東正面においても、いずれは中国による核恫喝、核使用の危険性が指摘されている。このような時、この共同声明は時宜に適しており、重要な一歩と認識する。

 ●米の核戦力と関係強化
 中でも、「同盟における核及び非核の軍事的事項の間の関係性について緊密に協議する」との確認は重要である。日本独自の核保有による抑止が難しい現状において、戦略核戦力による抑止を米国に委ねながらも、日本として、通常戦力による最大限の抑止力強化に努力することは、米国の核戦力及び日本の非核戦力の関係性を強化することになる。
 例えば、近い将来、戦略核戦力が米中ほぼ均衡状態になった状況で、中国が戦術核を日本に対して使用しようとした場合、これを抑止するため、日本として独自の抑止力を持つことが極めて重要となる。具体的には、中国の戦術核攻撃実行に不可欠な指揮・統制施設、戦術核発射施設などの軍事目標に、日本の非核戦力によって反撃を加えるというものである。この反撃の手段には、現在開発中のスタンドオフミサイルの射程延長や極超音速滑空弾が考えられる。
 一方、米国は、戦略核レベルにおいて中国を抑止するとともに、日本の反撃力行使に際しては、日本への軍事情報の提供及び日本の攻撃が及ばない軍事目標に対する非核攻撃を実施する。このように日米共同で中国の戦術核攻撃を抑止する。これは、核攻撃を通常戦力で抑止する一方で、核戦争へのエスカレーションは防止するという、日本独特の抑止施策である。

 ●議論の具体化に期待
 4月10日の日米首脳共同声明では、「我々は、日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止を、引き続き強化することの決定的な重要性を改めて確認し」と示されている。日本のスタンドオフミサイルや極超音速滑空弾によって増進される抑止力を、日米共同による核抑止力として、どのように構築していくか、具体的に詰めていくことがまさに求められている。「二度と我が国に核攻撃をさせない」ことを目標に、今後さらに突っ込んだ議論がなされることを期待する。(了)