石破茂首相5分、韓国の尹錫悦大統領12分、マクロン仏大統領25分―。11月5日の米大統領選で勝利したトランプ前大統領との初の電話会談の長さである。祝意を伝える挨拶であり、順番や長さは問題ではないかもしれない。日本政府当局者は11月後半に模索している訪米時のトランプ氏との会談が「勝負になる」と強調する。だが、目下の石破首相を取り巻く厳しい国内情勢をみると、訪米は見送ったほうがいい。
●不安定政権は相手にされない
故安倍晋三元首相がトランプ氏との間で、各国がうらやむような蜜月関係を築いたのは、両首脳の波長が合ったこともあるが、安倍元首相が安定した国内基盤を持ち、長期政権だったという要素も大きい。
安倍元首相が再登板する前は日本を素通りして中国を頻繁に訪れていたドイツのメルケル前首相は、安倍氏に対し「あなたは長くなりそうね」と述べ、日本との首脳会談に前向きに応じるようになった。
政権基盤の安定していない指導者など各国から相手にされない。とりわけトランプ氏はロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、イスラエルのネタニヤフ首相ら民主主義国家であろうと専制国家であろうと「強い指導者」と渡り合うことを好む。
しかも、安倍元首相が2016年11月に就任前のトランプ氏と会った時と、今では状況が全く異なる。当時は外交経験もないトランプ氏に安倍元首相が中国情勢などについて説明する立場だったが、トランプ氏は4年間大統領を経験したとの自信を持っている。安倍元首相をなにかとライバル視している石破首相が「自分なら違ったやり方でトランプ氏と渡り合える」と信じ込んでいるとしたら大きな間違いだ。トランプ政権が来年1月に発足し、国務長官、国防長官など主要閣僚の陣容が固まった後に会談しても遅くはない。
●性急な会談は国益を損ねる
10月27日の総選挙で与党過半数割れを喫し、衆院の予算委員長など国会運営の重要なポストを野党に奪われた石破首相が11月にトランプ氏と会談しても、何を約束できるのだろうか。まさか持論のアジア版NATO(北大西洋条約機構)や日米地位協定の見直しは持ち出さないだろうが、仮に何かを約束しても、与党過半数割れでは実行できる見通しは何もない。
重ねて言う。来年4月まで政権を維持できるか分からない状況で、慌ててトランプ氏と会う必要はない。かえって国益を損なうだけだ。(了)