衆院選での与党惨敗は図らずも、わが国のバラマキ偏重の財政政策の是正を促す好機をもたらした。石破茂政権と自民党は所得税などの減税を掲げて若い勤労世代の支持を集めた国民民主党を取り込まないことには、政権維持が危うくなったためである。
●「年収の壁」見直しに緊縮財政派が抵抗
減税抵抗勢力は緊縮財政主義の財務省に寄り添う与党幹部、経済学者と一部メディアで、一様に財源難、政府債務を問題にし、将来世代にツケを回すなと主張する。国民民主党の玉木雄一郎代表が与党との政策協議で真っ先に提起する「年収103万円の壁」の見直し、つまり所得税の基礎控除など103万円の178万円への引き上げについて、林芳正官房長官は「7兆〜8兆円の税収減になる」と警告する。メディアも税収減7.6兆円という政府試算を引き合いに出して「慎重な議論が要る」(11月3日付日本経済新聞社説)と論ずる。
これらの論点は財政を単なる差し引き計算でしか考えない。所得税の控除引き上げで、これまで年収を103万円以内に抑制していた働き手が活気づき、人手不足が緩和され、家計も楽になるという経済のダイナミズムを無視する。
米国では連邦政府も議会も景気対策として、所得減税を真っ先に提起する。対照的に1990年代後半以降、慢性デフレが続く日本では、政府・与党が家計消費の持続的な拡大を支える本格的な減税に取り組もうとしなかった。財務省はいったん減税すれば恒久化すると恐れ、自民党税調に反対させてきた。政府が苦し紛れに打ち出すのがバラマキである。一過性の歳出拡大には財務官僚の抵抗が少ないからだ。
当初予算で増税し、政策経費を削減して、国内需要を萎縮させては大型補正予算を組むのが日本政治の恒例行事である。補正関連の支出が一段落すれば、効き目はなくなり、内需は元の木阿弥、デフレは再び深刻化するというパターンを繰り返す。バラマキは砂漠の水まき同然、安定した経済成長につながらないばかりか、政府債務の膨張を招いてきた。
●バラマキを拒否した現役世代
メディアが実施した衆院選比例区投票先政党に関する出口調査結果の年代別シェアをみると、20歳代、30歳代が最も多く投票したのが国民民主党だった。若者層は選挙戦で低所得者向け10万円給付を唱える公明党に唱和する自民党ではなく、現役世代の減税と社会保険料負担の軽減、手取り(可処分所得)の増加を政策として訴えた国民民主党を支持した。子供を育て、高齢世代を養う現役世代の民意は、不毛なバラマキに代わる減税主導の財政政策なのである。(了)