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西岡力

【第1199回】トランプ氏当選を拉致解決のチャンスとせよ

西岡力 / 2024.11.18 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 トランプ第2期政権の登場は、北朝鮮による拉致被害者救出のチャンスになり得る。
 トランプ氏は第1期政権時代、日本人拉致問題に精力的に取り組んだ。2017年の国連演説で「13歳のかわいい少女」が拉致されたとして横田めぐみさん拉致に言及し、北朝鮮を糾弾した。拉致被害者の家族会とは2回もじっくり面談して訴えを聞き、その場で被害者有本恵子さんの父、明弘氏が渡した手紙に、直筆の返事を送ってきた。故安倍晋三元首相は私に、「一緒にゴルフをすると大統領と長時間話ができる。トランプ氏と最初にゴルフをしたとき、カートの中でずっと拉致の話をした」と語った。

 ●金正恩氏に3回の問題提起
 トランプ氏は2018年と19年に2回、北朝鮮の最高指導者金正恩氏と首脳会談を行った。その会談で合計3回、拉致問題を取り上げた。19年2月のハノイ会談では、最初の1対1の会談で取り上げ、金氏が他の話題に逃げたので、その直後の少人数の夕食会で再度取り上げた。すると金氏は「意味のある回答」をしたという。同年5月、ホワイトハウスを訪問した家族会代表と私に、国家安全保障会議のポッティンジャー・アジア上級部長(当時)が教えてくれた。
 同年5月5日、共同通信は複数の日本政府関係者の話として、そのとき金氏が「日朝間の懸案として拉致問題があるのは分かっている。いずれ安倍晋三とも会う」と発言した、と報じた。
 トランプ氏は安倍氏との友情や、拉致というテロへの怒りだけで日本人拉致問題に取り組んだわけではない。米国の国益の観点があった。当時、北朝鮮は核実験とミサイル発射を頻繁に行い、米本土を攻撃できる核ミサイルを持つ直前まできており、それをやめさせるため、トランプ政権は軍事行動さえ辞さない構えだった。米朝首脳会談はその圧力の成果だった。
 ハノイでトランプ氏は北朝鮮に完全な非核化を求め、それをすれば豊かになれると説得した。ただし、制裁解除は行うものの経済支援はしないとも明言した。トランプ氏は、経済支援は日本が行うが、その前提条件は拉致問題解決だから、安倍氏に会うよう説得し、金氏は会うと返事をしたのだ。ところが2日目午前の会談で、金氏は米国の情報機関が確実な証拠を握っていた南浦市降仙のウラン濃縮施設の廃棄を拒否したため、土壇場で交渉は決裂した。

 ●進展は日本の外交努力次第
 今年9月、北朝鮮はこれまで秘密にしていた降仙ウラン濃縮施設を、国営メディアを通じて公開した。金正恩氏はトランプ氏に対して、ハノイでは認めなかった降仙の施設まで廃棄するから首脳会談をしようというメッセージを送ったのだ。
 トランプ第2期政権発足からあまり時間を置かず、米朝首脳会談が実現する可能性が高い。金正恩氏はハノイで約束した寧辺の核施設廃棄、核実験中止などに加えて、降仙のウラン濃縮施設廃棄、大陸間弾道ミサイル(ICBM)廃棄などのカードを切るだろう。そのときトランプ氏が再度、拉致問題解決を迫るかどうかは、日本の外交努力にかかっている。(了)