公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第1232回】トランプ氏を日本の自立に利用せよ

有元隆志 / 2025.03.10 (月)


国基研企画委員・産経新聞特別記者 有元隆志

 

 世界がトランプ米大統領に振り回されている。トランプ氏にいかに対処するか、日本政府当局者らは2月7日の日米首脳会談に備え、緊密な関係を築いたトランプ氏と安倍晋三元首相の51回に及ぶ首脳会談(電話会談を含む)の全記録をもう一度読み直した。
 ある政府当局者は「トランプ氏がいかに面と向かって説教されることを嫌うか安倍氏は熟知していた。関税問題など日本側の立場を説明しないといけない話題もあったが、その際は一対一の会談ではできるだけ避け、全体会合で話した。トランプ氏とテレビカメラの前で衝突したウクライナのゼレンスキー大統領に伝えたかった」と漏らした。

 ●同盟強化の好機
 安倍、トランプ両氏の蜜月ぶりは『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル』(文藝春秋)にも詳述されている。1期目のトランプ政権のホワイトハウス高官は著者の元朝日新聞主筆、船橋洋一氏に「安倍はトランプとの距離感の保ち方が絶妙だった。(中略)お世辞はよく言ったが、へつらい、追従はなかった。トランプは安倍には一目置いていた」と語った。
 安倍氏に心を許したトランプ氏は2018年11月30日の日米首脳会談で、中国の習近平国家主席との会談内容を伝えた。トランプ氏は習氏に「日本に気を付けろ、日本を怒らせてはダメだぞ、眠れる獅子を起こすな。あの戦争を覚えていないのか」と忠告したという。船橋氏が生前の安倍氏にインタビューして聞いた内容だ。
 その日米が激しく戦った戦争から80年の節目にあたる3月末、中谷元・防衛相とヘグセス米国防長官が激戦地・硫黄島を訪問し、日米合同慰霊式に出席する。日米の防衛担当閣僚がそろって硫黄島での慰霊式に参加するのは初めてだ。島では日本軍2万1900人、米軍6821人が死亡し、未だ1万1000人近くの遺骨が眠っている。式典は日米の和解と同時に同盟の結束を示す機会となろう。

 ●安倍氏の対処術に学べ
 安倍氏はいかに親しくしていたとはいえ、トランプ氏が習近平氏に過去の戦争の話を持ち出し、米国は部外者であるかのような発言をしたことに不安を覚えていた。安倍氏は受け身になるのではなく、「日本は自分で自分を守れ」というトランプ氏をむしろ利用し、防衛力強化に努めた。それでも憲法改正など課題も残っていることを認識していた。われわれは安倍氏の遺志を引き継ぎ、日米同盟の意義と価値を高めると同時に、日本の自立性を増す努力をしなければならない。(了)