公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

奈良林直

【第1231回】原子力規制委の抜本的改革が必要

奈良林直 / 2025.03.03 (月)


国基研理事・東京科学大学特任教授 奈良林 直

 

 原子力規制委員会による原子力発電所の新規制基準では、原発本体の安全審査合格後、工事認可があり、その認可から5年以内にテロ対策施設の建設を終えなければならない。東京電力の柏崎刈羽原発7号機(新潟県)は、発電所の工事が終了し、再稼働が視野に入っていたが、テロ対策施設の建設が今年10月の期限までに完了せず、同月以降、施設が完成する2029年8月まで運転できなくなる。

 ●テロ対策はワイヤフェンスで可能
 テロ対策施設は、正式には特定重大事故対処施設(特重施設)と呼ばれる。ハイジャックされた航空機の突入などのテロに対応するため、予備の制御室や原子炉冷却設備を備える。
 当初の新規制基準では特重施設は発電所の安全審査合格から5年以内の建設が義務づけられていたが、特重施設の建設は地下のため、時間がかかることが予想された。そこで日本保全学会が、特重施設の機能は注水車と電源車を使えば代替できるので、発電所本体の工事認可から5年以内とするよう当時の更田豊志規制委員長に提案し、規制委が法律改正に応じた。
 ところが特重施設は、原発本体の工事認可と別に審査されることになってしまい、工事認可から5年たっても特重施設が完成していない状況が生まれた。柏崎刈羽原発の場合、仮に新潟県知事の同意が出て今年夏までにいったん再稼働しても、特重施設建設期限の10月には運転を停止しなくてはならない。
 そうした事態の発生を避けるため、日本保全学会では、特重施設が未完成でも、航空機テロ対策として航空機障害物(ワイヤフェンス)を原発周辺に設置することで発電所の運転を認めるよう規制委に提案した。1本1億円の送電鉄塔を原発の周囲に10本建て、ゴルフ練習場のフェンスのようにワイヤを張り巡らせばよい。乗っ取り機は原発本体ではなく、ワイヤフェンスにぶつかって墜落するので、テロ犯への心理的な強い抑止力となる。
 この構想を国際シンポジウムで発表したところ、米国の原子力規制委員会(NRC)に注目され、要望されて発表資料を電子データで提出した。

 ●効率を欠く原子力規制
 今や原発の安定的運転の最大の障害は、原子力規制委による規制である。米NRCの活動5原則で重要なのが「規制の効率」であるが、日本の規制委にはその効率重視がない。特重施設の工事内容はテロ対策の機微事項なので、公開されない。今からでも遅くないので、航空機障害物の設置を条件に、特重施設の建設完了期限を、特重施設の工事認可から5年に変更すべきだ。
 上空から攻撃してくる戦闘機はミサイルや戦闘機で撃墜できるが、邦人が乗った旅客機には引き金を引けないと自衛隊関係者は言っており、原発の守りを固めることは重要だ。
 しかし、特重施設の完成にこだわって原発再稼働をやめさせる現在の原子力規制こそが、地球温暖化を加速し、生活弱者を電気代高騰で苦しめる諸悪の根源になっている。科学技術と国民生活を重視した規制を行うように、規制委の抜本的改革が必要である。(了)