北京で11日に閉幕する中国の全国人民代表大会(全人代、共産党主導の国会)では、習近平政権が経済停滞の中での軍備増強路線を明らかにした。先端半導体や人工知能(AI)など軍民両用技術の強化を急ぎ、西側の最先端技術奪取に全力を挙げるだろう。
●実質経済成長率は2%前後
全人代冒頭で、李強首相は2025年の実質GDP(国内総生産)の前年比伸び率目標を前年並みの5%前後にすると発表した。国防予算(名目値)は前年比7.2%増の1兆7846億元(約36兆7600億円)である。
デフレ圧力が強い中国では、実質経済成長率は名目成長率よりも高い。中国公式統計の実質成長率は23年5.4%、24年5%で、名目はそれぞれ4.8%、4.2%である。しかし、中国の著名エコノミストで中国政府に助言してきた高善文氏は昨年12月、米国のシンクタンクのシンポジウムで、中国の実質成長率は政権が誇示する約5%ではなく、実際には平均で2%程度だと暴露した。習氏が激怒し、公安当局に高氏処分を命じたという。
中国GDPの5割前後を占めてきた固定資産投資は住宅バブル崩壊のために大幅に減少している。そこで、中国国家統計局が毎月発表する固定資産投資データなどを基に、筆者が計算してみると、実際の名目成長率は23年が0%前後、24年は4%弱で、実質ベースでそれぞれ1%弱、3%前後、平均すると2%前後となり、高氏の指摘は正しい。不動産バブル崩壊は今なお底が見えない。
●軍拡で進むAIの活用
経済不振から抜け出るメドが立たない中での軍事支出拡大には、中国の国運がかかっている。軍拡は空母増強など既定路線にとどまらない。力を入れているのは軍事のAI化である。生成AIは膨大な情報データを瞬時に解析し、的確な予測を可能にするので、軍民双方で活用が進む。AIを使えば、陸海空でドローン兵器の活躍の場が飛躍的に増える。同時に、AIはロボットに組み込まれ、製造業の自動化や製品開発などに導入され、経済成長の新たな核になる。
トランプ米大統領はシリコンバレーの情報技術(IT)の起業家たちと一体になって、軍事や政府機構のAI化を目指している。
習氏は全人代で、生成AIの新興中国企業ディープシーク(DeepSeek)の台頭を念頭に、AIを中国経済の新たな柱とする重要性を強調した。ただ、アキレス腱がある。半導体などAI基幹技術の多くは米国に劣り、しかも米国の輸出規制を受ける。中国を巨大市場だと思い込むような日本企業は標的にされ、最先端技術を中国に提供させられる。要注意だ。(了)