公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1236回】北朝鮮が原潜建造を開始

西岡力 / 2025.03.17 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 北朝鮮の金正恩労働党総書記が「重要造船所」を訪問して「原子力戦略誘導弾潜水艦」の建造実態を現地で確かめた、と労働党機関紙・労働新聞など北朝鮮公式メディアが3月8日に報道した。北朝鮮は2021年の労働党大会で決めた「国防5カ年計画」で原子力潜水艦の建造を目標に掲げている。報道には建造中の原潜らしいものの写真も含まれていた。
 北朝鮮が核ミサイルを搭載する原潜を保有すれば、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を使わなくても米国本土を核攻撃できるし、地上配備の核ミサイルを韓国軍に破壊されても原潜から韓国を核攻撃できる。朝鮮半島を巡る戦略バランスを変える脅威となる。

 ●ロシアから盗んだ技術を利用
 原潜建造の進展状況や必要な技術の入手方法について、最新情報を得たので紹介する。それによると、金総書記が訪問したのは、潜水艦建造を従来行ってきた新浦造船所ではなく、清津造船所だ。同造船所で最近、1万トンクラスの原潜の建造が始まった。ロシアとの国境から近いという理由で清津造船所が選ばれたという。
 ただし、ロシアからウクライナ戦争への北朝鮮軍派兵の見返りに正式に原潜技術の提供を受けたのではない。金総書記はプーチン・ロシア大統領に中古原潜の提供を求めたが、プーチン氏は、中古原潜は制御に技術と資金が必要で、事故を起こしたら大変な被害が出るとして断り、新品の原潜を買うなら売ると告げた。しかし、かなりの高額だったため、金総書記は外貨不足で買えないと判断した。そこで北朝鮮は、ロシアの原潜技術者を個別に買収して技術を盗むことにした。
 ウクライナ戦争前に、北朝鮮のスパイ7~8人がロシアの原潜技術を盗もうとして逮捕された。当時ロシア政府は軍事技術への北朝鮮スパイの接近を厳格に取り締まっていた。2023年、金総書記が訪ロしてプーチン氏と会談した後、北朝鮮スパイは釈放された。ロシアの技術者らも最近の朝ロ関係の改善を背景に、北朝鮮へ技術を密売しても厳罰には処されないだろうと思うようになっていて、それを利用して北朝鮮のスパイがロシア人技術者から原潜技術を入手している。

 ●小型原子炉は未入手か
 原潜建造のためには特殊鋼板が必要だが、北朝鮮では作れないので、ロシアから密輸した。また、原潜を動かす小型原子炉の製造・制御技術は入手できていないようだ。したがって、核ミサイルを搭載する原潜がいつ完成するかは分からず、監視し続ける必要がある。
 なお、この時点で北朝鮮が原潜建造を公表したのは、トランプ米大統領と早期に交渉したいという金総書記の思惑が絡んでいる可能性もある。自分を放っておくと脅威が高まるから、早くこちらを見ろというメッセージを出したという側面もあるということだ。(了)