国基研理事・拓殖大学大学院教授 遠藤浩一
「田中直紀防衛相」に唖然とした国民は少なくないと思ふ。唖然どころか、筆者は呆然とした。
奇妙奇天烈な防衛相人事
「社会保障と税の一体改革」を進めるために内閣改造を断行し、解散まで示唆し始めた野田佳彦首相だが、国防・安全保障の立て直しもそれに匹敵する、いや、それ以上に重大な政策課題である。前者については、岡田克也元外相を副総理格で入閣させることで決意のほどを示したつもりなのだらう。〝原理主義者〟の厚遇によつて増税といふ難問が一気に打開できるのかどうか定かではないけれども、解散の示唆と合はせて、それなりのアピールにはなつてゐる。
しかし、防衛相人事は酷すぎる。国家資本主義大国・中国が海洋進出の意思を鮮明にする中で、普天間基地移設問題を拗らせるだけ拗らせ、その後始末に当たるべき主要ポストたる防衛相に最初「素人」を任命し、はたして不適格性を露呈し臍を噛んだばかりなのに、今度も首を傾げざるを得ないやうな選択をした。
渡辺周副大臣の昇格や長島昭久首相補佐官の抜擢、あるいは在野からの任用など、他にいくらでも選択肢はあつたにもかかはらず、党内事情を優先して奇妙奇天烈な人事でお茶を濁してしまつた、そこに野田氏の限界があらはれた。
そもそも党内事情に配慮して決めるべきポストではないのである。防衛相に誰を指名するかは、すなはち安全保障上の対外メッセージにほかならないからだ。これを見て東南アジア諸国連合(ASEAN)各国も米国も内心失望したのではないか。台湾の心ある人々は「日本、恃むにたらず」と、肩を落としたことだらう。内心小躍りし、舌なめずりしてゐるのは中国に違ひない。「日本、与し易し」と。
やはり「融和」優先
小沢一郎元代表と反りが合はないとされる岡田氏を敢へて入閣させたことで、野田首相が「党内融和」の呪縛から解放されたとの見方も一部にはあるやうだが、それは違ふ。輿石東幹事長への「忠誠」がこの人事には端的にあらはれてゐる。要するに、「党内融和」のために日教組出身の幹事長のご機嫌を取り結ぶべく、自衛官の息子のこの首相は、国防・安全保障を人身御供にしたわけである。自著『民主の敵』の帯紙には「『保守政治家』を語った唯一の著書」と謳はれてゐるが、「保守政治家」が聞いて呆れる。
野田氏にとつて何より大切なのは国家よりも「民主党」なのだらう。「民主の敵」を叩き、民主党の融和を図るのが、この御仁の唯一最大の政治目標であるに違ひない。この程度の政治家に、財政や安全保障の立て直しをはじめとする国家の重要課題を託すわけにはいかない。
これ以上民主党政権に期待するのは過誤の繰り返しである。改造内閣は選挙管理に徹すべきである。(了)
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第124回:野田改造内閣は選挙管理に徹すべきだ(遠藤浩一)