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【第130回】「違法状態」放置は野田内閣の敗北宣言だ

遠藤浩一 / 2012.02.27 (月)


国基研理事・拓殖大学大学院教授 遠藤浩一

野田佳彦首相は、またも判断を誤つた。

衆議院議員選挙区画定審議会(区割審)の勧告が期限の2月25日までに提出されず、衆議院は「違法状態」になつた。藤村修官房長官は「解散権が縛られるといふ規定はどこにもない」(22日)と強がつてゐるが、かうした事態は前代未聞で、民主党の藤井裕久税制調査会長が断言したやうに「選挙は絶対できない。できるはずがない」(24日)と見るのが常識的だ。

合意困難な定数削減と抜本改革
立法府の怠慢が招いた異常事態で、与野党ともに責めを負ふべき問題ではあるが、それ以前に、野田政権及び民主党執行部の判断ミスが大きい。

この問題が混迷してゐるのは、①一票の格差是正、②定数削減、③抜本的選挙制度改革といふ、背景や動機の異なる三つの論点が十分整理されぬまま議論されたことによる。

①の格差是正は違憲状態からの脱却を目的とするものだから、それこそ「待つたなし」だし、その意味で、各党の合意形成は比較的容易な筈だ。現に民主党と自民党は「0増5減」で一致してゐる。ところがそこに、②の定数削減と③の抜本改革が加はつたものだから、まとまる話もまとまらなくなつてしまつた。

国会議員が自ら身を切る定数の大幅削減は消費税増税のための踏み絵である。民主党政権は、前回総選挙では否定してゐた消費税増税を推進するために、マニフェストに掲げた「比例80削減」を下ろせなくなつた。つまり「違反」と「墨守」の二律背反なのである。しかも公明党など小党にとつて比例定数の大幅削減は死活問題であり、簡単に容認するとは思はれない。定数削減は矛盾と限界を露呈してゐる。

その上、制度そのものの改革にまで踏み込めば、各党の生存にかかはる議論にならざるを得ず、合意形成はますます困難になる。何故ことさらに問題を複雑にしてしまつたのか。なんだか、まとめないための議論をしてきたやうにさへ見える。

「0増5減」を急げ
一部には、解散できないといふことは、解散しなくてもいいといふことであつて、これで政権延命が可能になつた、との見方もある。バカを言つてはいけない。このまま任期満了までの一年半、統治能力を欠いた民主党政権に委ね続けるのは、国家の自殺行為にほかならないし、野田首相自身にとつても得策ではない。解散権行使を封印された総理大臣に強力な指導力を期待することはできないからである。首相は「違法状態」を黙認することで、自らレイムダック化を選んだに等しい。

安倍晋三元首相はそのことを承知で「話し合ひ解散」に言及した(25日)。野田氏はこの〝助け舟〟に乗るべきだ。それには、定数の大幅削減と抜本改革は棚上げして、民主、自民両党が主導する恰好で、まづ「0増5減」を急ぐべし。いつでも解散できる環境を整へないことには、政治は緊張感を欠き、弛緩する一方である。国民はたまつたものではない。(了)

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第130回:「違法状態」放置は野田内閣の敗北宣言だ(遠藤浩一)