国基研副理事長 田久保忠衛
中国の習近平副主席は5日間にわたった訪米を17日に締めくくり、「完全に成功した」と総括した。何をもって「成功」と述べたのかは定かではないが、オバマ政権発足直後の米国の「熱狂」は風と共に去ってしまって、米側の中国に対する「国際ルールを守れ」の声は一層強まるだろう。問題は世界第二の軍事力と経済力が周辺諸国に及び、知らず知らずのうちに中国になびく傾向が強まることで、私はそれを強く懸念している。
強まる「国際ルールを守れ」の声
米側の空気がいかに冷めていたかは、オバマ・習会談ではっきりした。大統領が人民元、貿易慣行、シリア批判の国連決議に対する中国の態度を外交的言い回しで質したのに対して、中国側はまともに答えていない。
オバマ政権発足以来、中国との接触とりわけ習副主席と行動を共にする機会が最も多かったのはバイデン副大統領だ。米中首脳会談の前日、国務省で開かれた歓迎宴は「地味」で「ビジネスライク」だったとニューヨーク・タイムズ紙は形容していた。バイデン副大統領があいさつの中で、中国の知的所有権侵害の具体例を挙げて皮肉った時だけ笑い声と拍手が起きたというから、雰囲気がどうであったか想像はつこう。
私は、いま米国が中国に突きつけているのは「国際ルールを守れ」の一点だと思う。昨年11月のキャンベラ演説でオバマ大統領は、中国に対し国際法、国際法規、海洋の自由を守れと直接求めた。東シナ海、南シナ海その他での軍事行動を戒めたのである。一般教書でも今回の首脳会談でも、米国の言わんとするところは普遍的価値観に従えとの要求だろう。
隷従拒否こそ日本の在り方
習氏が中国の最高指導者になったあとでも、米中間にはやり取りが続くと思う。その間に周辺諸国は、経済的に中国にがんじがらめにされつつ、軍事力を背景にした外交的圧力におののく。わが国の与野党の一部に存在する米日中「正三角形」論は、中国への恐れが心の底にあるからこそ、無意識に試みている自己正当化の理屈ではないかと私は見ている。
北朝鮮は論外にしても、韓国にはあからさまな中国批判論が少ないと聞く。台湾の馬英九政権の今後にも不安な要素がある。歴とした日本の一県なのにもかかわらず、沖縄の財界人の中には「日本は友人だが、中国は親戚だ」と公言する向きまで出てきた。中国大陸への隷従を断固拒否した聖徳太子以来の日本人の遺伝子は、普遍的価値観を守ろうとする国際社会の大勢の中で一層光を発するはずだが・・・。(了)
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第129回:中国になびくな、おののくな(田久保忠衛)