安倍晋三首相はTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加する腹を固めたようである。昨年12月の総選挙前から自民党が言っていたのは「聖域なき関税撤廃を前提とする限り交渉に参加しない」というものだ。そもそも例外のない取り決めなどあり得ない。先月の日米首脳会談で「例外はある」と認め合ったのは当たり前のことで、既に米国はオーストラリアとの協定で砂糖や酪農品の輸入自由化を断っている。全国農業協同組合中央会(JA全中)の万歳章会長は「TPP交渉参加に絶対反対」を叫んでいるが、参加することによって最も改革を迫られるのはJA全中や全国農業協同組合連合会(JA全農)の組織そのものだからだ。
●小規模農地を集約せよ
農業技術、土壌の質、水質のどれを取っても、日本ほど農業に向いた国はない。日本農業が国際競争力を持たない最大の理由として、耕地面積の狭さを挙げる人がいるが、こういうのは自由化反対のための理由付けにすぎない。日本では1~2ヘクタールの規模でコメを作るから食えないのである。この規模の土地で、野菜作りや果樹、園芸に転換し、年に2000万~3000万円を売り上げている農家はざらにある。
1~2ヘクタールでコメ作りをしているのは、兼業か老齢農家ばかりだ。従って、いま農政がやるべきことは、地方公共団体など公的機関が間に入って耕作放棄寸前の土地を借り上げ、20~30ヘクタール規模の農家に集約することだ。
いま農家戸数は260万戸だが、今後5年間に70万戸が消滅することが統計的に分かっている。都会に出ている息子や娘たちは田んぼのままで土地を相続しないから、現在40万ヘクタールに達する耕作放棄農地は急激に増えるはずだ。
●農協の本音は組織防衛
もう手遅れと言ってもいい状態だ。なぜここに至るまで放っておいたかといえば、農協が存在するゆえだ。本来、農政は1~2ヘクタールの土地を10戸分集めて若い後継者に引き継ぐようなことをやるべきだった。しかしこれをやると、農協は1台300万円もするトラクターをこれまで10台売ってきたのに、1台しか売れなくなる。
コメの生産コストは小規模農家なら1俵(60キロ)当たり1万5000~1万6000円だが、20ヘクタール以上の農家になると5000円を切る。農協は米価を高く維持すれば高い手数料が入るから、コメが安くなることには反対だ。このため田んぼの6割が減反されている。
日本農業が抱える最大の問題は、小規模農家にコメ作りを諦めさせない農政にある。この間違いを正すと、農協の存在理由に関わってくる。加えて、日本がTPPに入れば、損害保険と生命保険を兼業する現在のJA共済のやり方は守れなくなる。JA全中は自らの存続のためにTPPに反対なのだ。(了)