公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第190回】主権と相いれない「交戦権の否認」

色摩力夫 / 2013.04.22 (月)


元チリ大使・国基研客員研究員 色摩力夫

 

 1952年4月28日に対日平和条約が発効して、わが国は主権を回復した。この時点で、われわれ日本国民は自主的な憲法の制定に取りかかるべきだった。ところが、為政者も国民も無為のまま今日に至っている。後世の子々孫々に思いを致すと、このような怠慢は誠に慚愧に堪えないところである。
 間もなく主権回復記念日を迎えようとしている。政府主催で28日に初めて記念式典が開かれるのを契機に、今こそ新憲法制定の機運が盛り上がるよう期待したい。

 ●従属国家時代の憲法
 現行憲法は、わが国が従属国家の地位にあった時期に制定されたものである。その法的根拠は1945年に調印された降伏文書である。そこには、日本の「国家統治の権限は……連合国最高司令官の制限の下に」置かれるという文言がある。つまり、わが国は主権を制限されて従属国家となったということである。
 既に遅きに失してはいるが、早急に自主憲法を制定する必要がある。もし現行憲法の改正という手法をとるのであれば、改正すべき条文を詳細に検討せねばならない。ここでは取り敢えず第9条第2項の中にある「交戦権の否認」の問題を取り上げたい。それは、わが国の主権と相いれない重大な規定だからである。
 第9条には、形式の上では二つの項目がある。しかし、内容から見ると、性格の異なる三つの規定から成っている。即ち、①戦争の放棄②戦力の不保持③交戦権の否認―である。

 ●主権の核心的要素
 交戦権否認の規定は「国の交戦権は、これを認めない」というものである。この規定は、修飾句などの制限条件が一切ない単純な文章である。この点で、他の二つの規定と異なる性格を持っている。即ち、条文解釈を変更する余地が全くないのである。
 わが国は、これまでに自衛権の行使や自衛隊の創設などの問題については、条文解釈という手法により何とか対処してきた。ところが、交戦権否認の規定は、自衛戦争も許容しない規定となり得るにもかかわらず、事実上無視されてきたのではないだろうか。
 国際法における交戦権は、主権の核心的要素の一つである。それは従属国家には認められない。従って、わが国が従属国家の時期に交戦権が認められなかったのは当然である。憲法に交戦権の否認をわざわざ明記する必要もなかった筈である。では、何故に明記したのか。それは、いまだに不明である。
 交戦権否認条項は、主権とは真っ向から矛盾するものであるので、主権回復の時点で直ちに消去して然るべきものだった。今や、幸いにして安倍晋三首相が「国防軍」の設置を提唱している、もし、現行憲法の改正という手法をとるのであれば、第9条の第2項をそのまま削除すればよい。交戦権と国防軍の二つの問題を同時に処理できることになるからである。(了)