政府の教育再生実行会議がいじめ・体罰、教育委員会制度と大学教育についての提言を出したが、日本の教育は根が枯れ幹が腐りかけているという危機意識と、「文明の衝突」という世界認識が欠落している。民主党政権は目先の費用対効果で事業仕分けをしたが、教育改革は国家百年の大計に立って「未来への投資」を重視する必要がある。
●いじめ予防と道徳の土台は家庭教育
昨秋、自民党の教育再生実行本部で私は3回いじめ問題について提言し、アメリカでは49州で反いじめ法が制定されていることを踏まえて、いじめ対策基本法制定の必要性を訴え、法律案も提出し、対症療法と併せて、いじめの未然防止、予防対策の重要性も指摘した。基本法は制定されたが、予防対策は不足している。
いじめの根源には共感性、恥、罪悪感の欠如があるが、そうした感情が育つ脳の臨界期は2歳の終わり頃(ハーバード大学カガン教授の学説)であり、3歳までの家庭教育がいじめ対策や道徳教育の土台となるのだ。その意味で、「教育再生は家庭教育の再生から」という視点を教育再生実行会議は明確に提言してほしい。埼玉県では家庭用道徳副読本を配布しているが、「道徳の教科化」と併せて全国に広げる必要があるのではないか。
次に、教育委員会制度については、ガバナンスが機能していない首長、教育委員長、教育長の権力・権限のあり方を根本的に見直す必要がある。その意味で、第三者機関の設置など、教育の政治的中立性、継続性、安定性を確保するための仕組みを設けた上で、現行の教育委員会事務局を首長の補佐機関に改編することを提言した公益財団法人・世界平和研究所の「教育改革試案」(平成23年5月)は検討に値する。
沖縄県八重山地区などにおける教科書採択の混乱が繰り返されないように国の責任、権限を明確にしつつ、教育の地方分権をいかに進めるか、精緻な議論が求められる。
●大学教育再生に文明論的視点を
最後に、大学教育に関する教育再生実行会議の第3次提言は、経済や理工系の視点に依拠した産業競争力会議の議論の後追いになっており、根本的な見直しが必要だ。一般的に「グローバル化」は「世界の画一的平準化」と捉えられているが、「日本」という主体性が欠落したグローバル人材の育成は、無国籍化した優秀な人材を海外に大量流出させかねない。
「グローバル化」とはハンチントンのいう「文明の衝突」に他ならない。このような世界認識に立脚した国家戦略の文明論的視点から、大学教育のあり方を再検討し、日本文化を世界に発信する長期構想を構築し、実行すべきだ。国基研もそのための提言をまとめる必要があろう。(了)