防衛省は7月14日、中国の軍艦5隻が北海道の宗谷海峡を通過したのを確認したと発表した。この海峡はロシアの軍艦も頻繁に通過している。また、6月には鹿児島県の大隅海峡を2隻の中国軍艦が通過した。日本の海洋管理、とりわけ海峡管理体制の脆弱性に危機感を持つ。
●不合理な領海放棄
日本は領海を沿岸の基線から12カイリ(約22キロ)幅と定め、沿岸海域で主権を行使している。しかし、宗谷海峡、津軽海峡(青森県・北海道)、大隅海峡、対馬海峡(長崎県)東水道、同西水道の五つの海峡については、特定海域として領海の幅を3カイリ(約5.6キロ)とし、海峡の中心部の管轄権を放棄し、この部分を公海としている。
国連海洋法条約では、国際航行に使用されている海峡を「国際海峡」として、船舶の自由通航、潜水艦の潜航したままの通過、航空機の上空通過などの「通過通航権」を認めている。だが、国際海峡であっても領海内であれば、他国の艦船による無許可の海洋調査、示威的活動、特別な理由のない滞留は禁止される。また、船舶の航路を指定する「分離通航帯」を定め、厳格な航行管制を行うことも可能だ。
しかし、日本の特定海域は、国連海洋法条約の規定によらず、自主的に領海を放棄しているのである。日本は、5海峡を通過する外国の軍艦に制約を課すことができず、一般船舶への警察権も持たず、犯罪の抑止すらできない。政府は、特定海域設定の理由を「国際交通の自由な航行を保障するため」としているが、理屈になっていない。一般的には、非核三原則に従い核搭載艦の海峡通過を黙認するためだと考えられている。
●海の安全は国民の安全
ここで海外の事例を紹介する。年間9万隻を超える船舶が通航するマラッカ海峡は国際海峡であるが、インドネシア、マレーシア、シンガポールの沿岸国は領海を放棄していない。むしろ、船舶通航量が多く、事故・事件の危険性が高いため、領海に組み入れ、国家として責任を持って航行管制などの海洋安全に取り組んでいる。
日本は、速やかに特定海域を廃止し、領海を12カイリに設定するとともに、いったん国際海峡として扱うことを放棄すべきである。国際的な基準からすると、代替航路を近隣に持つ大隅海峡と対馬海峡東水道は国際海峡にする必要がない。宗谷海峡は隣接するロシア、対馬海峡西水道は韓国との協議で海峡管理の強化を求めることが可能だ。ここで重要なのは津軽海峡の扱いだ。津軽海峡を国際海峡とするならば、航行安全の名目で航路指定などの規則を設け、通航管制体制を構築する必要がある。
米国のみならず、中国やロシアの軍艦が日本の海峡を通過し、日本海へ出入りしているとなると、厳格に海峡を管理しなければならない。日本において海の安全を守ることは、国民の安全を保障することに直結するのだ。(了)