小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」発言が加速している。菅義偉官房長官は「わが国は言論の自由(のある国)だから、いろいろな議論があっていい」と問題視しない姿勢だが、原発推進の最高責任者だった人の発言として許されるだろうか。
民主党のエネルギー政策を党代表時代に原発重視へ転換させた小沢一郎氏(現「生活の党」代表)や、非現実的な脱原発論を振りかざす菅直人元首相からエールを送られるような小泉元首相のパフォーマンスには、あぜんとするばかりである。
●原子力立国を打ち出した小泉内閣
小泉元首相は、東日本大震災後のNHKの「10万年後の安全」というテレビ番組に衝撃を受け、「自分なりに勉強して」原発をゼロにすべきだという結論に至ったそうだ。しかし、小泉内閣時代の2005年10月に原子力政策大綱が閣議決定され、2006年6月に「原子力立国計画」が策定され、同時に太陽光発電の補助金が打ち切られたのは周知の事実である。
小泉元首相は「放射性廃棄物処分の当てもない原発推進は無責任」と主張するが、高速増殖炉の2050年頃からの導入、使用済み核燃料の中間貯蔵、放射性廃棄物の処分という一連の課題は、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会での13回の審議を経て、原子力立国計画の報告書(2006年8月8日)にまとめられている。元首相はこの報告書をどれほど真剣に読んだのであろうか。さらに、放射性廃棄物処分問題を抜本的に解決する可能性を持つ第4世代の安全な原子炉、特に統合型高速炉(IFR)の技術的可能性も、冷静に判断すべきである。
●世界に期待される日本の技術
小泉元首相は2011年5月28日に日本食育学会・学術大会の特別講演で「日本が原発の安全性を信じて発信してきたのは過ちだった」と発言したのを皮切りに、公の場で脱原発発言を繰り返している。しかし、先の報告書にも、「既設の原子力発電所を活用する」に当たっての安全性について、「この取組はまだ道半ばであり、今後とも継続的に取り組んでいくことが必要である」と指摘されている。原発に危険性や弱点があることは福島原発事故の前も後も変わっていない。最高責任者として、それを認知し対応してこなかったことに問題がある。
福島原発事故以降も日本の原子力技術への国際的な信頼は揺らいでいない。新興途上国を中心に、原子力発電計画が世界的に拡大していくことが確実な状況で、日本は今回の原発事故の教訓を踏まえた最新の原子力技術の世界への移転を通じて、原子力利用の安全性向上に貢献していくことが、国際社会から期待されている。(了)