公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

櫻井よしこ

【第216回】首相は今こそ靖国参拝を

櫻井よしこ / 2013.10.15 (火)


国基研理事長 櫻井よしこ

 

 間もなく靖国神社の秋の例大祭が執り行われる。参拝を長年の強い想いとしてきた安倍晋三首相にとって、眼下の国際情勢を分析すれば、参拝すべきときは今を措いてない。にも拘らず、首相参拝は今回も実現しないとの報道があり、最大の障壁はいまや中国でも韓国でもなく、米国だとの見方が専らである。
 自民党幹部も語った。
 「オバマ大統領は中国と問題を起こしたくないのです。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、北朝鮮、シリア問題に加えて、国内問題でも手一杯のオバマ政権は、日中の摩擦を新たな負担と考えています」

 ●一部官僚は「阻止」に命懸け
 元々参拝に反対の人々はオバマ政権の送るメッセージに容易に同調し、首相が参拝すべきでない理由を殊更に探す。首相補佐官の衛藤晟一氏が驚くべきことを指摘した。
 「首相周辺の官僚の中には、命を懸けても参拝を阻止するという御仁もいます。彼らも、安倍政権は大事だ、長期政権にしたいと考えるから、その種の言葉が出てくるのですが…」
 首相参拝によって生ずる中国や韓国の対日批判を乗り切るには米国との関係に細心の注意を払うのは当然である。従って、安倍政権を支える官僚や政治家は、参拝阻止の視点でなく、安倍首相の真意を尊重し、日本国の国家としての基本を貫くにはどうすべきかという視点で国際情勢の分析に臨まなければならない。
 米国の反発には二つの要素がある。一つは、中国が主張するように、日本は歴史の修正主義に走り、戦後の国際秩序を破壊しようとするのかという反発、もう一つは、日中間の摩擦が米国外交に新たな負担となってのしかかるという懸念である。

 ●米国説得に努めよ
 第1点に関して、日本政府は米国の誤解を解けるはずだ。日米安保条約締結からすでに61年。日本は米国の歴史の4分の1強の長きにわたる同盟国だ。この間、日本は戦争を乗り越えてどれだけ誠実に米国と協調してきたことか。歴史修正に走っているのではないことは、当事国の米国こそが知っているはずだ。
 第2点については、日本は冷静に指摘し続けなければならない。問題を起こしているのは日本ではなく中国なのである。国際社会はすでに国際法をも顧みない中国の横暴を知っている。孤立しているのは中国だ。如何なる国にとっても当然の、祖国に殉じた死者への祈りを材料に、中国や韓国と足並みを揃えて日本非難に走ることが如何に米国の国益に反するかを、日本は米国に説かなければならない。
 中国、韓国、そして米国と、外国の思惑を気にして条件整備を優先する外交姿勢そのものが靖国参拝を政治の道具に貶める。大事なのは、日本が国としての基本姿勢を静かな決意で示し続けることだ。中国の横暴が明らかないま、内向きの米国を勁(つよ)い日本こそ補完できるのだ。そのためにこそ首相は静かに参拝して、新しい地平を拓(ひら)くのがよい。(了)