11月4日、「安倍政権発足10か月――集団的自衛権と日本の防衛」と題して、谷内正太郎(内閣官房参与)、佐藤正久(自民党参院議員、前防衛政務官)、渡辺周(民主党衆院議員・元防衛副大臣)、櫻井よしこ(国基研理事長)、田久保忠衛(同副理事長)各氏によるシンポジウム(国基研会員の集ひ)が行はれた。詳報は他に譲るとして、ここではエッセンスを紹介して、聴衆の一人として感じたことを記したい。
●気になる谷内氏の慎重姿勢
田久保氏による「オバマ政権が2期目に移行してから米国の対外政策は内向きに変化した。大統領はシリア制裁について議会に判断を委ね、米国は世界の警察官ではないと強調した。国際環境が大きく変化してゐる。安倍晋三首相はむしろ米国をリードするかたちで日米同盟を立て直す必要がある」との問題提起を受けて、谷内氏は「安倍内閣は地球儀を俯瞰する外交を展開しようとしてゐる。政策には優先順位があり、慎重かつ戦略的に進めていくべきで、集団的自衛権の解釈見直しを含めた安全保障政策の立て直しについても丁寧な議論が必要だ」と述べた。佐藤氏は「ことは憲法解釈の変更だけにとどまらない。安全保障基本法や防衛大綱、日米ガイドラインなど関連法制や規定の整備・見直しを同時に進める必要がある」と指摘、渡辺氏は「自衛隊に警察権を付与するか、海上保安庁の自衛隊化を進めるか、いづれにせよ自衛隊と海上保安庁の間の〝グレーゾーン〟を見直す必要がある」との見解を示した。
気になつたのは谷内氏が発言の冒頭で、「国民が安倍政権に期待した第一は経済力を含めた国力の回復であり、第二は長期安定政権として課題を着実に解決していくことだ」と強調し、安全保障や憲法改正について敢へて触れなかつた点だ。そこで田久保氏が「慎重に政策を遂行するのは結構だが、首相たるもの英断が求められる場面もある。谷内さんはそこを支へてほしい」と、国家安全保障会議(日本版NSC)事務局初代局長への起用が取り沙汰される谷内氏にハッパをかけた。同氏は「憲法改正は総理の信念であり、大目標だ。私も同じ思ひだ。ただ、憲法を改正するまで何もしないでいいといふわけではない。まづ集団的自衛権を行使できるやうに憲法解釈を変更すべきだ」と応じた。
●英断こそ首相への大きな期待
最近永田町や霞ヶ関では、安倍首相のポリティカル・キャピタル(政治資本)を大切に活用すべきだといふ議論が少なくない。かうした言ひ回しは、しばしば「面倒なことは後回しに」といふ文脈で用ゐられる。しかし、安倍氏なら憲法改正をはじめとする困難な仕事をやり遂げてくれるに違ひないといふ期待が、首相のポリティカル・キャピタルの枢要な部分を占めてゐることを忘れてはならない。首相への失望感は折角の政治資本を毀損する。
この日のシンポジウムでは、官邸、与党、野党、そして民間の間で、憲法改正など国家の基本問題について、堂々と建設的な議論を進めていくべきといふ点で一致した。有益だつたと思ふ。(了)