ニューヨーク・タイムズ(NYT)が日本叩きに血道を上げている。マーティン・ファクラー東京支局長は12月3日、「戦争の書き直し、日本の右翼が新聞社を攻撃」の見出しの記事で、慰安婦問題に関する日本国内の朝日新聞批判を「右翼」「超国家主義者」の行動と断定し、元朝日新聞記者の植村隆氏を右翼勢力の犠牲者として描いた。
続く4日、NYTは朝日批判を社説「日本における歴史のごまかし」でも取り上げた。「日本の右翼政治勢力が安倍晋三政権に奨励されて、第2次世界大戦時の恥ずべき歴史を否定する脅迫キャンペーンを展開中」と非難した。社説の内容はだいたいファクラー氏の記事と重なる。NYTは、植村氏が元慰安婦の金学順氏の物語を捏造したことや、元慰安婦の女性たちの証言が根拠を欠いていることについては触れていない。
●天皇誹謗論文を掲載
NYTによるこの種の一方的な報道は慰安婦問題に限らない。もう一つの事例が今年9月30日に掲載された米歴史学者ハーバート・ビックス氏の主張「ヒロヒトは操り人形ではなく黒幕だ」である。
ビックス氏の昭和天皇と日本、さらには安倍政権への非難は、如何にしてこれほど偏向し得るのかと思うほど知的公正さを欠いている。「ヒロヒトは」と呼び捨てにし、「政策決定に天皇の意思を介入させる制度やイデオロギーを体現した人物」で、「戦後、米国型の憲法が彼の統治権を剥奪した後でさえも、政治に干渉し続けた」と甚だしい事実無根の主張を展開する。「ヒロヒトは臆病な日和見主義者で、何よりも皇室の維持に熱心だった」と学者、研究者の風上に置けない誹謗中傷を書いて氏は恥じない。そのような主張を載せてNYTは恥じない。
●根深い対日警戒心
同紙になぜ悪質な言説が繰り返し登場するのか。歴史を振り返れば、そのような主張が米国における対日観の、一部ではあるものの、根深く定着した強力な主張であることが見てとれる。
1906年のオレンジ・プランに明らかなように、日清、日露戦争で勝利した日本に米国は強い警戒感を抱き始める。それは1922年のワシントン会議で日英同盟を破棄に追い込む原動力となった。当時の米国の空気は、「(米国の)外交活動の大半は、他の諸国ことに日本が我々の好まない特定の行動を追求するのを阻止しようという狙いを持っていた」と戦略家ジョージ・ケナンが書いたように、色濃い排日思想を漂わせていた。
日本の敗戦後は、現行憲法に明らかなように、日本を二度と自主独立の強い国にさせないというGHQ(連合国軍総司令部)民政局に代表される思想で日本を占領した。NYTやビックス氏の慰安婦、天皇をめぐる日本非難は、靖国神社参拝や憲法改正に関する日本批判と同根である。日本を自主独立の気概なき弱い国のままにしておきたいという米国の対日観を受け継ぐものであろう。(了)