国基研企画委員・主任研究員 冨山泰
次の首相になる鳩山由紀夫民主党代表の「脱米入亜」的な主張が米国で波紋を投じた。特に保守派の研究者やメディアから「反米」「反資本主義」と烙印を押され、日米同盟への影響について懸念が表明されている。
核廃絶は大甘
米国の保守派シンクタンク、ヘリテージ財団のクリングナー上級研究員は、8月31日付の論文で、民主党の政策の中には米国の利益に反するものが多く、憂慮すべきだと指摘。中でも、27日のニューヨーク・タイムズ電子版に掲載された鳩山氏の論文が、日本は米中の「狭間」にあるなどと論じ、アジア中心の戦略を提唱していることをヤリ玉に挙げた。
ウォール・ストリート・ジャーナル(アジア版)のキッセル論説委員長も31日付の同紙論説で、「鳩山氏は日本を(日米)同盟から遠ざけると発言することにより、大衆迎合の点稼ぎに励んでいる」と酷評した。さらに、鳩山氏の率いる民主党が「核兵器廃絶の先頭に立(つ)」(マニフェスト)と大見得を切っていることについて、「北朝鮮の最近の核実験やミサイル発射に照らして、そうした考えは無責任であるばかりか、全く甘い」と切り捨てた。
同紙は同じ日の社説でも「鳩山氏は米国に引き続き日本の安全を保障してほしいのに、在日米軍と米軍基地を減らそうとしている」と、鳩山氏の主張の矛盾を突いた。
じっと我慢のオバマ政権
これに対してリベラル派の鳩山評は定まらない。ニューヨーク・タイムズの9月1日付社説は、自衛隊艦艇によるインド洋での給油活動終了方針に懸念を示す一方で、鳩山氏が中国などへの配慮から靖国神社に参拝しないと表明したのは「良い兆候」だと評価した。ワシントン・ポストの同日付社説は、北朝鮮の核の脅威が高まる中で、日本は米国と亀裂を生もうとすべきでないと批判した。
米国内の鳩山氏批判に対して、知日派の代表格グリーン元国家安全保障会議(NSC)上級アジア部長は、鳩山氏や民主党が「脱米入亜」的な主張を展開したのは選挙戦術だったと解釈し、民主党政権が発足すればそうした主張を徐々にしなくなると予想した。
オバマ政権は当面、民主党政権の軌道修正をあせらずに待つ構えだ。中道左派のキャンベル国務次官補はワシントンでの9月2日のセミナーで、「民主主義国の政権移行には時間がかかる」と述べ、「我慢が肝心」と繰り返した。ただし、米側の我慢にも期限がある。要人の発言から推測するなら、短ければ数カ月間、せいぜい来年夏の参院選までだ。(了)
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第3回:鳩山氏は「反米」で「反資本主義」―米保守派(冨山泰)