国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎
鳩山由紀夫民主党代表は9月7日、「朝日地球環境フォーラム2009」に参加し、22日の国連気候変動サミットで、CO2削減の中期目標として「2005年比30%減(1990年比25%減)」を表明すると発言している。そうした国際公約の前に、国民への説明責任を果たし、信任を得るべきである。
環境対策の費用と便益を提示し、国民に選択の機会を与えよ
民主党の環境政策に関するマニフェストの中身は全く空疎である。その公約には、上記の中期目標の実現のための具体的な手段や費用は全く提示されていない。政府機関や複数の民間研究機関・専門家からは、たとえ可能であるとしても、欧州連合(EU)や米国に比して限界削減費用は約10倍にも及び、国内全体で190兆円以上の費用が必要であり、日本の国際競争力に壊滅的な影響を及ぼすといわれている。また、この目標実現の過程で、技術移転、クレジット購入等で莫大な国富の流出が避けられない。
さらに、国民負担は、年間36万円増等の問題が指摘されている。まず、民主党は、自己の責任において、国民に負担費用と便益を提示し、国民に選択の機会を提供することは当然の責務である。
地球を冷やすには、まず頭を冷やせ
地球規模での利益をもたらす真の地球温暖化対策の進展に向けて、理想を高く掲げることは決して無意味ではないが、CO2削減を巡って各国は国益をかけて鎬を削っている現実を肝に銘じなければならない。地球温暖化が進んでいるとしても、「いまやっている温暖化対策に効果があるのか」「温暖化対策よりもっと大事な課題はないのか」「そもそも温暖化は本当に問題なのか」という根本的な問題に十分な答えを持っている者はいない。所謂環境派のバイブルともいえるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書でも、その答えは見出せない。そもそもIPCCは上記の種類の課題に答える立場にないことを自ら基本にしている科学者集団であり、科学的知見に基づく情報提供集団である。その情報を基に、何を、どうするかは、国益を懸けて国際交渉に臨む政治家の使命である。
中期目標を撤回せよ
現在の潮流に流されずに、IPCCの科学的分析を冷静に検討し、排出権取引に矮小化された温暖化対策の枠を超えて、科学的根拠に基づく、長期的に実効性のある対策を世界規模で検討するためのリーダーシップをとることが、日本の役割であることを自覚する必要がある。それには、まず、中期目標を撤回し、再検討が求められる。(了)
PDFファイルはこちらから
第4回:鳩山氏はどこの国の首相になるつもりか(大岩雄次郎)