公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第285回】密接に結び付く憲法論議と歴史情報戦

島田洋一 / 2015.02.09 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

 

 2011年9月、国基研代表団が安倍晋三現首相を含む超党派議員団と訪印した際、ある元インド政府高官が発した言葉が印象に残っている。「憲法9条は日本の病気、非同盟主義はインドの病気だ。高まる中国の脅威に対抗するため、それぞれが病気を克服せねばならない」。けだし金言であろう。

 ●テロ事件と国会の論議
 イスラム過激派による邦人惨殺を受け、安倍首相は「国民の生命と財産を守る任務を全うするため」憲法9条の改正が必要であると明言した(2月3日参院予算委)。一方、野党などでは「今の憲法を『さげすんでいる』というか、非常に低く見ている首相の下での憲法論議は非常に危ない」(岡田克也民主党代表)といった後ろ向きの態度が一般的なようだ。
 それゆえ首相も「テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わせるため、国際社会と連携していく」と宣言しつつ、①有志連合の軍事作戦への参加は「あり得ない」②自衛隊の後方支援は憲法上可能だが、「そのための法律がないためできない。法律ができても政策として行わない」―という、国際的には理解不能の答弁から脱却できずにいる。
 地理的に離れた中東ならともかく、仮に朝鮮半島で有志連合が拉致被害者救出も含む軍事作戦を行うに至った時、同じ答弁がなされたなら、間違いなく世界から「さげすまれる」だろう。

 ●人質救出作戦の中心を担った日本
 かつて日本は、国際的なテロ勢力制圧・人質解放作戦で中心的役割を担ったこともある。1900年、過激な排外主義を掲げる義和団が北京に進出、清国政府も呼応して6月、日英米独仏露など8カ国に宣戦布告、清国政府軍と過激派が協力して公使館区域を攻撃する異常事態となった。テロの標的となった中国人キリスト教徒も約3000人が区域内にかくまわれ、激しい籠城戦が約2カ月続いた。日本の柴五郎駐在武官が外国使節団全体の参謀長役を務めている。
 8月14日、日本軍が約半数を占める8カ国連合軍救援部隊がようやく到着し、公使館一帯は籠城から解放された。英紙タイムズ社説は「日本兵が輝かしい武勇と戦術をもって籠城を持ちこたえたのが、この事件の一大特徴」と記している。直後の連合軍による北京の軍政でも、日本の担当地域が最も軍紀厳正との評価を得た。
 こうした史実に通じた「知日派」なら、近代日本戦史に慎重さや合理性を欠く事例が少なからず見られるとは言え、30万人の無差別殺りく(南京事件)や20万人の女性強制連行(慰安婦問題)が捏造と瞬時に感じ取れるはずだ。海外の反日勢力のみならず、日本の護憲派も歪曲された歴史カードを手放せない。「日本軍=侵略」でなければ都合が悪いからだ。憲法改正の論議と歴史情報戦は、分かち難く結び付いている。(了)