公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙橋史朗

【第286回】米歴史教科書の訂正拒否を批判する

髙橋史朗 / 2015.02.16 (月)


国基研理事・明星大学教授 髙橋史朗

 

 2月5日、米歴史学者19名が「学問の自由に対する脅威」を盾に、米国の高校世界史教科書(マグロウヒル社)に対する日本政府の訂正申し入れに反対する声明を出した。なぜか声明の全文は公開されていないので、韓国メディアの報道に基づいて問題点を明らかにしたい。

 ●韓国メディアのデマ宣伝
 まず事実関係の明白な誤りについて指摘しておきたい。共同声明には「特定の利益団体が政治目的のために、出版社や歴史学者に研究結果を変えるように圧迫することに反対する」と書かれている。
 福井県立大学の島田洋一教授が1月29日の「国基研ろんだん」で引用した同21日付朝鮮日報には、「『新しい歴史教科書をつくる会』所属の髙橋史朗明星大学教授が米国の歴史教科書の記述を歪曲しようとしていることに対し、米国内の歴史家が反発」し、言論や学問の自由に対する「直接的な脅威」であると批判したと書かれている。また、「極右団体の『つくる会』が実査(=実地調査)作業を行い、日本政府に報告していたことが確認されている」とも明記されている。
 この朝鮮日報の報道に先立ち、韓国SBSテレビは1月18日に「日本極右団体と政府が米国の教科書の日本軍慰安婦の記述内容を歪曲するための組織的な動きに出たことが確認された」と伝えた。そして、「髙橋史朗明星大学教授は最近、国家基本問題研究所(のウェブサイト)に掲載した英文の寄稿文で(教科書の内容を)修正することを要求」し、これは外務省の修正要求の「動きと正確に一致」すると報じている。この情報に基づいて朝鮮日報の記事が書かれたことはほぼ明白である。
 しかし、事実は異なる。間違いは2点だ。筆者は埼玉県教育委員に就任する2004年に「つくる会」を退会しており、「特定の利益団体が…」という批判は当たらない。また、外務省がマグロウヒル社に教科書の訂正を申し入れたのは昨年の11月7日(正式な協議は12月中旬)であり、筆者がニューヨーク総領事館を訪れたのは12月24日であるから、二つの動きは「正確に一致」しない。
 従って、「『つくる会』が実査作業を行い、日本政府に報告していたことが確認されている」というのは、悪質なデマ宣伝(プロパガンダ)にすぎない。

 ●学問の自由をはき違えた学者声明
 このとんでもない偽情報に踊らされて歴史学者の共同声明が出るに至ったのであるが、「学問の自由」とは批判を受けない権利や学問の権威の下に一切の批判を許さない権利ではない。そもそも日本政府はマグロウヒル社の教科書を検閲する権力を持っておらず、米政府を経由する外交的圧力もかけていない。学問の自由をはき違えてはいけない。(了)